キジしろ文庫

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京極夏彦「絡新婦の理」(一)

あらまし

「ふふふふふ。蜘蛛を信じる仲間ですわ」。房総の女学校・聖ベルナール学院の生徒・呉美由紀は校内に潜む背徳の行為と信仰を知って戦慄する。連続目潰し魔に両目を抉られた教師・山本純子は呪われて死んだのか。そしてもう一人、教師の本田幸三が絞殺され、親友・渡辺小夜子が眼前で校舎から身を投じた。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 1/4なので、以下、備忘録程度に記します。コメントなしです。以下の大きなくくりの間に、自己を貫き居場所を獲得するべく、世間の評価がなす家の格、階級・序列、性差といった秩序や意識(束縛するもの)を破壊、混沌とさせるような男女の謎の関係がおりこまれています。

1.蜘蛛に訊け

 特殊な鑿による目潰し魔とされる彫金細工職人の平野祐吉。その4人目が、四谷の密室の宿泊所で凌辱され殺害されます。それは、前島八千代28歳、日本橋の呉服屋の妻女で、器量良く、甲斐甲斐しく、当たり柔しく、金勘定もできる申し分のない若令室でした。しかし、夫の貞輔は蜘蛛の使いと名乗る電話から、売娼・淫売と思い込みます。夫が目撃した禿頭黒眼鏡で兵隊服の大男の犯行かも?しれませんが、それは、木場の友人の川島新造と酷似しています。そこで、木場は、川島を訪ねますが、娼婦を殺そうとしており、蜘蛛に訊け、と語り逃げていきます。なお、同性の、酒井印刷所の川島喜市は、平野の神経衰弱を心配し、精神神経科医の降旗弘を斡旋した友人として記されています。以下、既3連続目潰し殺人事件の被害者女性です。

信濃町の地主の娘で、品行方正で近所の評判も良い、矢野妙子19歳(目元の涼しい小綺麗な娘)

②男出入りの激しい自堕落な、千葉県興津町の水商売の川野弓栄35歳(切れ長の目も仇っぽい、脂の乗った年増風)

③千葉県勝浦町の謹厳実直な女学校教師の山本順子30歳(知識階級丸出しで、化粧気もなく年齢性別すらわからない風貌)

2.蜘蛛の僕

 ここでは、その亡くなった教師の女学校に通う、地位も名誉もない、家柄も良くないし、良家の子女とは程遠い、漁師の家柄の呉美由紀、渡辺小夜子が登場します。厳しい舎監だった山本は、売春をしている麻田夕子に自主退学を勧めたが呪いで殺された、ということに小夜子はこだわります。なぜなら、小夜子は、寄付金の額が落ち込んだことから、教師の本田から、馬鹿馬鹿しい口実をつけられ凌辱され、また生まれながらの娼婦だ、原罪の塊だと罵らたからです。そこで、本田を呪い殺したいと願う小夜子たちは、十字架の裏の大蜘蛛が恨みを晴らす良い悪魔だという話を聞き、さらに呪いは真実であり、同士になれば呪い殺してやると、直接聞かされます。次に、呪いの儀式を行い、売春もしている14人の蜘蛛の僕という同士の一員である麻田夕子と接触します。しかし、麻田はグループを抜けようとした罰で美由紀らを誘うよう命じられています。それは、信仰とは男のものであり、女性蔑視のキリスト教とは正反対のことをすることで、神を穢そうとしたことだったのですが、あの方?によってひと悶着合った淫売が死んだことから、恐くなったことが、その理由でした。また、悪魔を礼拝することは、清浄なる生を否定し、邪悪なる生を肯定する、辛いこと・哀しいこと・憎むことは素晴らしいこと、妊娠しない不潔・堕落な行為に耽ること、子供を生すことは冒涜行為などを話し、美由紀らに手を引かせようとします。しかし、3人目の呪い(前島八千代)が、品行方正・成績優秀、類稀なる才媛・美貌を誇り現理事長は義理の兄で財閥の令嬢の織作碧の登場とともに明らかとなり、実は妊娠していた小夜子は、とうとう理性を失ってしまいます。

「この世には、邪悪なものがあるということを知るのよ。聖職者が、善なるものの偉大さを説けば説くほど、対立概念としての悪しきものは、その立場を確かなものにする。私も、あなたちも逃げられなくなる。」

3.蜘蛛の巣館

 放浪の虫が騒いだ釣堀の番人伊佐間一成は、入り婿(家督を継ぐ男、当主)は皆早死にするという素封家で学校まで建てた紡織機で儲けた織作雄之助の葬儀を、呉仁吉と眺ながら、話が進みます。近寄りがたい絶世の未亡人真佐子47歳、長女紫28歳は昨春亡くなり、貞女の鑑次女茜、茜の婿是亮は傘下の会社を倒産させ、飲み・賭け事・女・暴力を奮い手が付けられない使用人出門耕作の息子、人間らしさを損なうほど整った容貌の三女の葵22歳(女性の地位向上、家父長制の打破、結婚も拒否)、四女の碧13歳らです。耕作からは、私生児と暮らしていた妾だった芳江(首吊りをした)の淫売小屋とも言われた小屋に燈があったと語られ、また、伊佐間から仁吉の塵芥蒐集品の鑑定を依頼された今川雅澄は、耕作からも蜘蛛の巣館での鑑定も依頼されます。しかし、そこで、是亮が殺害されてしまいます。(2020.04) 

では、また!