キジしろ文庫

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貴志祐介「天使の囀り」

あらまし

 北島早苗は、ホスピスで終末期医療に携わる精神科医。恋人で作家の高梨は、病的な死恐怖症だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように、自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンで、いったい何が起きたのか?高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか?前人未到の恐怖が、あなたを襲う。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、死と引き換えに、恐れや不安、苦痛といった負の情動を悦びや快楽に変えてしまう線虫感染者の拡がりに対し、それを否定し、果敢に防ぐことなど、自然な欲望や衝動に隷属することなく抗い、人格の尊厳性を選択することの大切さを表した内容だったのだと思いました。

    ただ、それにしても、おぞましくて虫酸が走るグロテスクな描写、ニッチな知識といった技巧・多量さに特徴があって、どうしてもそちらに目がいきがちになります。

    たとえば、感染者の例をとっても、とても突飛なものです。死恐怖症なのにウキウキしながら自殺する、潔癖症なのにアオコで水浴する、先端恐怖症なのにナイフで目を潰す、コンプレックスをもつ顔を劇薬に浸けて悦ぶ、ネコ嫌いなのになすがままトラに食べられる、嫌いな蜘蛛の上で恍惚となり欲情する、失うのを恐れる子を線路に投げ込む、など。

    そういうことですので、全体を通してのコメントは、以下のようなものでしょうか。しかし、かなり持ち上げ気味です。やっぱり素直に、「グロくて不快だった」です。

・興味や関心が自己の欲望を満足(「よりよく生きる」「幸福」「満足」「快楽」)する方向に喚起され、また刷り込まれ、気がつくことなく際限なく求めている、という社会の常識や価値観の行き過ぎに気付きが得られる。

・不幸な結末とならないよう、倫理感や道徳など一定のルールやモラルを見直すキッカケになる。

・他方、厳しい自然や病いなど人間存在を脅かす外部環境への、欲求満足は最優先されないといけない。(2020.05) 

では、また!