キジしろ文庫

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京極夏彦「陰摩羅鬼の瑕」(上)

あらまし

「花嫁が死ぬんですよ、呪いで」謎の洋館「鳥の城」の主、「伯爵」こと由良昂允は、四度も妻を婚礼の夜に失っていた。五人目の花嫁の命を守るべく、探偵・榎木津礼二郎と、小説家・関口巽は、昂允の依頼を受け、白樺湖に向かう。館の住人達の前にして、榎木津はいきなり叫んだ。「おお!そこに人殺しが居る!」。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 1/3分割です。生きることが苦手な関口巽が、伊豆の事件後、人間としての形をなし、鬱ヌケに悩むさまが、宝石箱のように多彩に煌めくよう表現されています。さらに、その鬱のグチャグチャなシャワーを浴びていると、物語そっちのけでひかれてしまいます。以下、本書より引用です。

1「他人より劣った人間」以下、非公開

・「貴方にとって生きて居ることと云うのはどのような意味を持つのです-」(中略)「意味はありません」

2「他者と決して視線を交えぬよう必ず下に向けられている視線」以下、非公開

3「一般社会にさえ適応できない卑屈で無能な人間」以下、非公開「羞恥心と劣等感と嫌悪感と、罪悪感と被害者意識と現実逃避と、そうしたものが綯い交ぜになって、私はもう忘我の境地に至っていたのだ」「否、そもそも私に得手な場所などない。生きること自体が苦手なのだから、安息の場所などあろう筈もないのだ」以下、非公開「私の恐怖は自己と自分以外と云う単純な関係に一旦は還元されてしまう。他者との正常な距離感を保つことが、先ず難しいのである。そしてそのいびつさはそのまま、自己と自分自身との関係に引き写される。そして私は私を厭う。それはそのまま厭世観へ拡大され、無力感や破壊衝動に繋がって行く。強いか弱いかの差はあるものの、外に向けば他人を傷付け、内に向けば己を傷付けることになる。他者の目が気になるのは、自意識過剰なのではなく、文字通り自己を劣等と卑下するからで、卑下の裏には他者への迂遠な攻撃が潜んでいるのだ。そんな自分が、何より嫌いなのである」「結局は死んでしまった方がいいのではないかと云うような、とてつもない負の想念に支配され、漸うそこから立ち直るとまた煩悶が始まるのである」「愚鈍」「私はー不安で居ることを求めている」

・彼には死の概念が欠落しているのじゃないだろうか。(中略)私はずっと、死と向き合って生きて来た人間なのだ。死に哀しみ、死を恐れ、死を厭い、死に憧れーそして死を願う病こそが鬱病なのである。私から死の概念を引っこ抜いたら、私は消えて罔くなってしまうだろう。以下、非公開

では、また!