キジしろ文庫

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朱川湊人「花まんま」

あらまし

 母と二人で大切にしてきた幼い妹が、ある日突然、大人びた言動を取り始める。それには、信じられないような理由があった…(表題作)。昭和30~40年代の大阪の下町を舞台に、当時子どもだった主人公が体験した不思議な出来事を、ノスタルジックな空気感で情感豊かに描いた全6篇。直木賞受賞の傑作短篇集。(文庫本裏表紙より)

よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、神秘体験を通して兄弟愛や男女の愛、友情といった、大事な人への想いが語られ、せつなさとともに人の優しさや、暖かみを感じます。

 とくに、各短編では、外国籍の人間への差別や偏見、体の障害や病気、突然の死やその苦しみなどの理不尽な境遇に遭い、その対処がされます。その際には、いたずらばかりする子鬼、飼っている家に幸せを運ぶ妖精生物、見送ってもらいたい女性3人を並べてやっと動き出した霊柩車、刺殺されたエレベーターガールの生まれ変わり、肉体を死なせる送り言葉をもつ送りん婆、空中でふっと消える凍蝶(木にとまって越冬する蝶)といった不思議な体験があって、その苦境を乗り越えていきます。

 結果的には、あきらめずに、捨て鉢にならずに、人と人とのつながりを信じて大事にすることの大切さを教えられたように思います。

 しかし、その一方で、人間に対する過度な期待や思いこみも、感ぜずにはおれません。また、読み解くべき人のいやらしさや邪悪、業といったものも描かれてません。さらに、身の回りで既に起きている、激烈な社会や経済の動き、猛威を奮う自然、急速に進歩する科学など、かかわらねばならないものも多いなか、全体的に世界観の小ささを感じます。

 なので、本書は、どちらかと言えば、古き良き昭和を思い出し、懐かしさを感じ・ひたるといったほうが、ふさわしいのかなと思います。いいとこどりして、さらりと、ゆったり・のんびり・ほっこり向きです。(2020.04)

では、また!