キジしろ文庫

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京極夏彦「絡新婦の理」(三)

あらまし

「こうなったら仕方がない。望んで蜘蛛の罠に嵌ってやるんだよ」。絞殺魔が捕縛されてなお迷走する捜査を横目に重い腰をあげる京極堂。事件の構造は連続目潰し殺人とさながら合わせ鏡であると探偵・益田、刑事・青木に気づかせた古書肆は敵の術策を思う。当然、僕の動きも読み込まれているのだろうな―。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 3/4なので、以下、備忘録程度に記します。コメントなしです。だいぶ繋がりが見えてきましたが、ほんぼしはよくわかりません。

1.登場人物は作者を糾弾できない、敵は事件の作者だ

 学園内で執拗に尋問を受ける美由紀は、亡くなったのは妊娠していた麻田夕子であり、渡辺小夜子は助かったことを知ります。どうやら渡辺小夜子は、飛び降りても助けられ、なおかつ、本田を殺めてくれたと思う黒い聖母を信じ込み、そこで、売春者名をしつこく聞こうとする海棠、是亮、さらには、麻田夕子は自殺(突き落とされた?)など偽証を続ける碧を、殺させようとしました。一方、学園を訪れた榎木津や益田らは、川野弓枝ーパトロンの是亮ー是亮が弓枝に頼まれて雇った隆夫との関係、売春・呪殺グループ蜘蛛の僕の頭目が碧であること、しかも、学園は校内売春し、その麻田夕子が呪った川野・山本・前島と目潰し魔との関連があることなどが明らかにしていきます。そんななか、捕まえてくれという役割である絞殺魔の隆夫を捕らえますが、その傍らで小夜子は既に死んでいました。どうやら、プロセス自体が次のプロセスを生成する解りにくい構図のようです。

2.蜘蛛の巣構造

 はじめは、京極堂宅にて、榎木津からの依頼をしようとした益田との会話になります。杉浦隆夫の確保は、次の犯人(麻田夕子突き落としと売春組織や目潰し魔を操る?)織作碧を指し示す、蜘蛛の筋書き通りのようです。以下、隆夫の供述になります。

・1年前から荒稼ぎをしていたサドの川野弓栄は、エログロ秘密倶楽部で貰い受けたマゾで少女崇拝者の隆夫を調教し、月1から週1売春にしようとして、その手先として学園に送り込みました。しかし、隆夫は、女王様から悪魔崇拝主義の少女の犬となり(寝返り)、小女たちは、邪悪な弓栄を呪殺し、隆夫という忠犬を手に入れ、自らの意志に基づく売春(黒弥撒)を行っていました。

・隆夫は、売春の手引きをしていたことの贖罪から、本田の性的虐待や是亮の恐喝を受けた渡辺小夜子の願いをかなえるべく、さらに蜘蛛の僕に接近(売春)を止めようとして、本田、是亮を殺害しました。ところが、小夜子は、本田殺害に伴う罪悪感と、裏切者の麻田夕子殺害の脅しによって、小夜子たちを取り込むための蜘蛛の僕の罠のなか、小夜子の突発的な自殺が生じ生き延びたもので、結局蜘蛛の僕に靡かず、反旗を翻した結果の、隆夫による殺害でした(結局、隆夫は碧のために働いた)。

 そんななかの、調べものを頼まれた妹敦子の情報です。

・婦人雑誌に貞女の鑑として掲載の前島八千代、婦人解放論文の雑誌に投稿の山本純子(織作葵反論)、カストリ雑誌の記事の川野弓栄、廃娼を扱う近代婦人に掲載の高橋志摩子、という殺害は、掲載されたことによるもうひとつの動機があるらしい、ということでした。

 そして、警視庁青木刑事とは、

・川島喜一(石田喜一)は内縁の妻芳江との子で川島新造の弟にあたります。喜一は、自殺した母の怨恨から、母に売春を強要したと聞かされた娼婦の川野、前島、高橋ら(既に空き家だったのに、川野は違うのに)を調べ上げ、売春歴のある前島に客を取らせようなど懲らしめよう・女性としての尊厳を安売りさせよう(犯人は知人の平野)としたところ、蜘蛛と係る喜一を案じた新造が客の身代わりをし容疑者となったもので、また、新造は真相を質すべく高橋と連れ立ったものでした。

 ここまでの結論としては、今回の事件は、動機を持つ渡辺小夜子と川島喜一、願いをかなえるかのような実行犯の杉浦隆夫と平野祐吉、身を案じて巻き込まれた堀美由紀と川島新造という瓜二つの構造から、杉浦の背後の織作碧、平野の背後の何者か、さらに全体の糸を引く真犯人とかという蜘蛛の巣構造になっていることや、そして次の被害者は、小夜子と対応する喜一であることや、関係者が都合よく動いてくれるよう、予め四方八方に水面下で圧力をかけておくという手口(自発的だと思う洗脳が仕組まれている)であることが京極堂から示唆されます。 (2020.05) 

では、また!