キジしろ文庫

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京極夏彦「絡新婦の理」(二)

あらまし

「僕等は…知らず知らずのうちに誰かの張った―網に掛かっているようだ」。理事長の織作是亮までが殺害された聖ベルナール学院。事件解決を慫慂する弁護士・増岡に京極堂は不思議な言葉を漏らす。一方、目潰し魔・平野祐吉を追う刑事・木場は捜査線上に揺曳する親友・川島新造の姿に困惑するばかり。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 2/4なので、以下、備忘録程度に記します。コメントなしです。作意のある偶然に巻き込まれて行くようです。

1.未知の偶然すら巧く取り込み、操る超越者の存在?

 探偵の榎木津礼二郎の助手を望んだ元県警の益田龍一らは、離婚をし旧姓に戻りたい杉浦美江(男女の対等・女性の社会進出や地位向上などの婦人と社会を考える会の中心人物織作葵から感化されていた。そして、興津町の売春組織の元締めの川野弓栄らに抗議した際に、神経衰弱し失踪した夫の隆夫が興津町にいるらしい、ことがわかった。ただし、その川野弓栄と出来ていたし、川野殺人の容疑者にもなっていた)から、夫の捜索の依頼があります。そこへ調査を依頼すべくやってきた、柴田グループの弁護士増岡則之とともに、中禅寺宅を訪れ、柴田グループ傘下の聖ベルナール女学院での殺人事件(現場にいた娘から、黒い聖母(基督教が切り捨てた女性原理を信仰理念にもつが、容認はされた)が犯人であることなど)が、語られます。ここで、夫の隆夫は厨房臨時職員であることを、柴田が探し当てます。3人は誰かの張った網にかかっているようだと中禅寺が語り、一旦end。

2.視線恐怖症

 川島新造が友人であることから、捜査から外された木場は、平野を診察した元精神科医で現在ヒモの降旗から、その病症を教えられます。それは、淫靡で甘美な背徳である覗き見という潜在性的倒錯の欲動への強固な抑圧・支配(倫理や常識、道徳・モラルなど)に対して反転して生じた視線恐怖症というものであり、さらに目潰し(鑿は男根、目は女性器)という対抗(克服)行為(自分勝手な自己実現)をすることで、周囲とのコミュニケーションをとるといった独善的異常な性交の代行行為であると。また、あらためて現場を反芻し、宿泊所における川島や多田マキの出たり入ったりや密室といった謎は、第三者のあらかじめの潜入者がいることで、解明できそうなことに思い至り、そこから、川島喜一は織作雄之助の娘の紹介や住所(千葉県興津町)という手掛かりをつかみます。

 ところで、猫目洞の潤との会話(たとえば女が人前で裸を晒せすことの是非は、時代や地域によって異なる文化、風習・慣習、モラル・ルールといった支配するものがあるため、個人の志が高かろうと低かろうと、決まってしまう。そこで、その支配を覆そうとする女性拡張論者は、封建制・家父長制の無自覚な犠牲者という女性の意識の低さを見て、貞淑な妻も淫売婦も女の敵と思うかもしれない)は、ひとつのヒントなのかもしれません。

3.女権拡張論者

 伊佐間らは、織作家にて事情聴取を受ける中、メイドのセツからその内情を知るとともに、そこへ現れた木場らとともに葵、茜、碧らの言動を伺います。

①葵:才媛舌鋒、陶器の飾人形。精神科医(非常に偏ったイデオロギーの下に生成された体制支持のための装置)やフロイト(男性至上主義の鬱屈した主観的観念論者、女性から人間性を搾取し不当に貶める性的妄想狂)を批判しつつ、平野の行為を、生きるとは男であり、男だけが人間である、とか、平野の動機を、被支配者的立場を享受する女達への更なる憎悪、とか激烈な信念を持っているようです。。

②茜:瞭然とせず、意見は揺らぎ、ただ詫びる。暴力的な支配を享受する。夜を拒む。あり得ないもの、幻想を護り続ける貞女。薬学の学校に通っていた。

③碧:信仰に基づく、斯あるべし。実子ではない?

④真佐子:隙なく、言葉に澱みなく、ただ毅然。女工と養子の子?

④紫:毒殺?家庭的・高等教育不要等男性中心社会の女性像にぴたりと嵌る人。

⑤雄之助:父権制度の権化のような男。

⑥石田芳江:囲い女。地域で認められ生き抜くために強姦をも受容。引き取られた息子有。

 他方、川島新造は、志摩子(元RAA、そこで知り合った友人は2名。蜘蛛(川島喜一?)につけまわされ、新造を訪ね、頸を絞められていた娼婦です)を拉致逃走してしまいます。興津町の淫売小屋で待ち構えていた木場は、嵌められたと言われた腹違いの弟である川島喜一を助けようとしてきたことであることを知る一方で、その志摩子は平野に殺害されてしまいます。

(2020.05) 

では、また!