キジしろ文庫

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ロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」

あらまし

 単身戦車部隊を撃破する破壊力を秘め、敵惑星の心臓部を急襲する恐るべき宇宙の戦士、機動歩兵。少年ジョニーが配属されたのは、この宇宙最強の兵科だった。そこで、ジョニーは、一人前の戦士となるための地獄の訓練を受けることになる・・・やがてジョニーは、異星人のまっただ中へ殴り込み降下をかける鋼鉄の戦士に成長していた!未来の過酷な宇宙戦を迫真の筆致で描き、ヒューゴー章に輝いた、巨匠ハインラインの傑作(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、戦闘降下の機動歩兵としての地上奇襲作戦にあたるも、その実、強化防護服の中で身を震わせる、このような始まりで、その後の物語に興味を抱きます。

 また、軍国主義ファシズム全体主義ナショナリズム国家主義国粋主義)、パトリオッティズム(愛郷心)、聖戦思想、大政翼賛文学などのワードが並ぶ後書きには、他所にはない、物珍しさがあります。

 ところで、本書については、

①回避不能の激烈な生存競争を生き延びるための獣の本能のひとつである、人の好戦的資質(野心含む)について、挑発・自己否定や戸惑い・救い・高揚・誇りなどの自己満足といった繰返しをして、より強固なものとして確立し、士気を鼓舞し、

②その結果、権力構造の一部となって取り込まれ、気づくことなく都合よく利用され、そして捨てられていく、かような権力構造維持への問題のすり替え(甘い汁を吸う・足の引っ張り合いといった内部抗争などのエゴ)が生じている。

 といった印象を持ちました。他方、緊張感もあり、のめりこみやすさはあるのですが、後書きにもあるように、むしろ、二等兵物語に宇宙服を着せただけ、といった醒めた距離感を持ちました。

 それは、過去の、あるいは今後も、暴力や武力といった力による構造を背景に、支配と従属の関係に陶酔しのめり込むよう諮られ、しかしながら、やがては形骸化や粛清などの内部腐敗が進み、その押し付けがましい独善化と制御を失った暴走、その果てを思うと、どうしても、政治そのものの存在意義や限界を考えざるを得ないと思うところや、時代にもよるのでしょうが、対人的な略奪や屈服、強制、束縛といった自由や多様性の否定は、やはり容認できないものなのだからと思いました。 

 さて、以下は本書の、偏見を含む簡単なまとめになります、参考まで。

(1)主人公は、高校卒業後、公民権を得るといった軽い気持ちで軍隊に志願し、「気合を入れろ」「上官の命令には絶対服従」「祖国のためには身命を惜しまない」など、冷酷非情で苛烈な教練・行軍・演習といった精神的肉体的鍛錬を受け、休暇や女性といった蜜も吸うなか、守られ甘えた自我を叩き直され、絞り上げられ、腹を据えた自己責任と力強い自覚に至ったうえで修了します。

 その後、グレンダツウでの敗戦寸前となった虫の巣作戦への参戦、冒頭の戦闘降下など地球来襲による全面戦争へと発展するなか、いよいよ職業軍人・士官の道へ進みます。

P118 戦争の目的とは、政府の決定したことを力によって支持することだ。その目的は、決して殺すだけのために敵を殺すことではなく、こちらがさせたいと思っていることを相手にさせることだ。殺戮ではなく・・・抑制され、目的を持った暴力なのだ。

P172 人生で最善のものは、金銭を越えたところにあるんだ。その代価は、苦しみと汗と献身だ・・・なかんずく、人生におけるすべてのもののうちで最も貴重なものは、その代価として、人生それ自身、生命を求めるのだ。

P293 市民であるということは、全体は部分より偉大であって・・・その部分が、全体が生きていけるためには、自らを犠牲にすることを謙虚に誇りとするべきであるという態度であり、心の状態であり、情緒的な信念である。

(2)士官候補生学校での最終試験となる、戦闘任務にて三等少尉として、惑星Pでの王族捕獲作戦に就きます。上官の叱咤激励、多くの戦友の死、父の入隊、かつての教官の戦場での支えのなか、恐怖・疑念や苦悩・虚無などに駆られながら、勇猛かつ冷徹に戦火をくぐり抜け、生還・卒業し、あらためて、士官候補生らを従えて、グレンダツウの戦闘に向かうところで、ストーリーは終えます。

P333 この神聖な公民権は、人間の持つ権力の究極のものであるから、われわれはそれを行使するすべてが、社会的な責任において、その究極のものを引き受けることを確約する・・・われわれはその祖国に対する支配力を行使しようとする人間のすべてに、その命を賭け・・・必要とあれば、その命を捨て・・・祖国の危機を救うことを求めるのだ。

(2021.01)

では、また!