キジしろ文庫

ミステリーや文芸小説、啓発書などの感想やレビュー、エンタメや暮らしの体験と発見をおすすめ・紹介!

アルフレッド・ベスタ―「虎よ、虎よ!」

あらまし

 “ジョウント”と呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ! この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる〈ヴォーガ〉復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、ジョウント(テレポーテイション)に伴い、外惑星同盟と内惑星連合の輸送・通信の需給貿易バランスが崩れたことで、戦争が勃発したさなかの物語です。

 主人公ガリー・フォイルは、ノーマッド号が火・木星間で戦闘艦の攻撃を受け、170日ほど漂流しています。そこへ、通りがかった内惑星のプレスタインの宇宙船ヴォ―ガが、その救助信号に気付きますが、アッサリ見捨てて去っていきます。このヴォーガへの憤怒・憎悪・復讐を抱いた主人公の行動遍歴が、世界を変えてしまう重大な秘密などを暴くことで、自らも含めた悪意や社会の特権構造を否定します(主人公は、ここで勧善懲悪の世直しヒーローとなります)が、最後に再生という更なる試練を与えられるというものです。

 どうやら、カーストやタテ社会、一部の特権階級といった権力構造とそれに伴う争いは、尽きることないようです。憎悪や嫉妬、嗜虐心など自己への強い執着心を背景に、富、権力、知力、武力・腕力を使って、他者を弄び、やりこめ、あるいはハズシやスルーをする。そんな悪意に満ちた対人関係は、その罪深さを認め贖い、赦しを求めても、救いなく、終わることなく繰り返さなければならないのかと、思いました。とくに、対人関係に始まり、対人関係に終わることは、出口の見えない輪廻になっているのかと、感じました(原罪)。

 さて、以下は概略とりまとめたものです、参考まで。

(1)ヴォーガに見捨てられた後、主人公は、宇宙船を改修したものの、野蛮民族の小惑星帯のサルガッソに拿捕・その脱出後、内惑星連合によって救助され、地球に帰還します。

(2)入院患者にジョウントを教えるテレパシーのミス・ロビンを脅迫(外惑星に家族を持つ)し、病院を脱出した後、ヴォーガのあるプレスタインの造船所を爆破しますが、拘束監禁拷問されます。ちょうど、プレスタインは、フォイルの身柄を抑えパイアを手にしようと、研究者ダーゲンハムと弁護士のレジス・シェフィールドに依頼をしたところでした。また、軍情報部のヤン・ヨーヴィルも戦争の勝敗のカギを握る戦略物資としてパイアを手にしようと、フォイルの引き渡しを求めますが、断られます。ここで、盲目で美貌の娘オリヴィアも登場します。

(3)拷問と取引のなかで、ノーマッドの積荷に白金があることを知ったフォイルは、復讐資金にしようと考えます、しかし、逆に、無期懲役刑として白状するまで洞窟病院に監禁されます。ここで、知力をつけることを諭してくれたジスベラとともに、脱走します(復讐のために白金を使いたいので、隠していたことが、後にジスベラに知れ、溝が生まれます)。そして、警察の追及を逃れ、ジスベラとノーマッド号に戻ります。実は、プレスタイン側は尾行もあり、ジスベラを置き去りにせざるを得ず、パイアと白金の入った金庫の奪取を成し遂げ、地球に戻ります。

(4)富裕の道化師となり、加速装置を体に埋め込んだフォイルは、軍に疑われ自殺未遂をしたミス・ロビンに近づき、避難民の家族がヴォ―ガに乗って、内惑星を目指していたことを教え、そのための乗組員を捜すことで協力を得ます。そして、3名の乗組員からは、ケンブ?のみわかるだけで、自白阻止剤により死んでしまい、その一方で、自分の幻影によって助けられもします。

(5)その後、プレスタインの新年パーティで、フォイルはその娘オリヴィアにゾッコンとなったり、ダーゲンハムに惹かれたジスベラと再会したり、外衛星同盟の爆撃を受けたりし、そして、ミス・ロビンから、ケンプとは、月世界のロッジ・ケンプシイであることを知り、彼女を自由にします。ミス・ロビンは、家族を捜すため、ヤン・ヨーヴィルを訪れ、フォイルのことを話します。

(6)月でのフォイルは、ケンプシイから、ヴォーガは金品を略奪したうえ避難民600人を宇宙に投棄していたこと、したがって金目のなかったフォイル救助もしなかったこと、その船長が火星にいることを聞き出しました。次に向かった火星では、禁欲のため感覚神経を切除し生きる屍となっているスコップツイ信者の船長から、ノーマッド通過の命令はしていないこと、更に問い詰めたところで、燃え上がる男によって、オリヴィアが命令者だと告げられます。しかし、フォイルは特殊部隊によって攻撃されてしまいます。

(7)そこを救ったのはオリヴィアですが、実は、盲目であったことから、みんなを自分と同じところまで引き下げてやろうとといった憎悪と報復のために生きており、フォイルと似た者同士でした。彼女によって、自己を嫌悪したフォイルは、地球に戻ります。

(8)フォイルはオリヴィアを含めた自首とパイアを渡そうと、シェフィールド(外衛のスパイだった)を訪ねますが。そこで、フォイルは、外衛による攻撃後、囮として漂流させられ、100万kmの宇宙ジョウントをしてノーマッド号に戻った真実を聞き、逆にその秘密のために連行されかけます。他方、オリヴィアの行動を知ったプレスタインたちは、フォイルをおびきだすため、ミス・ロビンのテレパスによって微量のパイアを爆発させます。

(9)ダーゲンハムやヤン・ヨーヴィルらが、パイアの所在のために、爆発後の現場でフォイルを見つけだしますが、フォイルは爆発の影響によって行った、時空をつらぬくジョウントによって、生き抜きます。

(10)プレスタイン宅で、パイアや宇宙ジョウントなど一堂に会し語られる身勝手な望みに対して、贖罪を望むフォイルは、その決定は自分ではなく、世界にパイアをばらまくことで、世界の人々にゆだねます。そして、時空をつらぬくジョウントによって消え、サルガッソ小惑星ノーマッド号内の器具ロッカーで胎児となって発見されます。

(2020.12)

では、また!