キジしろ文庫

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ジョン・スコルジー「老人と宇宙」

あらまし

 ジョン・ペリーは75歳の誕生日にいまは亡き妻の墓参りをしてから軍隊にはいった。それも、地球には二度と戻れないという条件で、75歳以上の男女の入隊しか認めないコロニー防衛軍に。銀河の各惑星に植民を始めた人類を守るためにコロニー防衛軍は、姿形も考え方もまったく異質なエイリアンたちと熾烈な戦争を続けている。老人ばかりを入隊させる宇宙軍でのジョンの波瀾万丈の冒険を描いた『宇宙の戦士』の21世紀版登場!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書にあったように、時間と費用と労力をかけて、自力で学び発見をしてテクノロジーを磨くのは、とてもたいへんで、だったら、既に作動している現物があれば交換や略奪によって入手したり、解析した方が簡単です。

 このように、必要最低限の生存の維持や、物質的・精神的な豊かさを求めていく進化の過程においては、相互の切磋琢磨によるより良い成長だけではなく、個人から対人関係へと問題のすり替えを発生させ、力による敵対と威圧・支配へ転換し、さらに、より大きな・強い力を求める集団や権力指向などの他者への依存・干渉・介入・束縛といったエラー(怠惰、愚鈍、悪意)も多々生じています。

 これに対しては、誰もが持っている自己への執着や嫉妬に抗う道徳心がなければ、どれもが被造物にすぎない対等感がなければ、自由で多様な発想で幸福を求めるこを阻み、自らの衰退、自滅に進むことになるということを自覚しなければならない、と思います。

 しかし、その一方で、このような矛盾を抱えたままの、不完全な世界は現存しています。自由や多様性を肯定するうえでは、襲いかかる野獣は、自己防衛のための排除はしなくてはならないのだと、感じました(⑥)。 

 さて、以下は、本書の着目点をしぼってまとめてみましたものです、参考まで。

①多くの人の入隊動機:まだ死ぬ準備もできないまま、どんどん年寄りになるのがいやだから、など。

②入隊後の身体改良:自分のDNAから形成されたインターフェイス付き強化クローンに、精神や意識といった自我が転送され、ほぼ人間ではなくなります。

③戦いの意義:自分の生命に代えて守るだけの価値がある人間の存在(家庭を持ち、子を育ててきた)というものを経験的に知っているから(犠牲心)。

④入隊1年後の精神的カベ:良心や道徳心を失った冷酷な殺戮マシンと感じます。しかし、仲間たちとなつかしいことを語り合うことで解消します。

⑤主人公の仲間達の戦死:兵員輸送船への撃墜、粘菌、掘削作業員による砲撃など。

⑥そもそもの背景:食人習慣もあるエイリアンとの熾烈な生存競争に巻き込まれ、地球や人類が生き残ろうとしている、不完全な世界である宇宙。

P253「戦いを選ぶことはできないんですよ、ジョン」

⑦主人公と妻キャサリン、特殊部隊員ジェーンとの関係:主人公は、スキップドライブ到着直後の撃墜による瀕死の状態を、先立たれた妻のDNAによる、過去の記憶のない別人(6歳)のクローン特殊部隊女性ジェーンにより、救助されます。これをキッカケに、二人の距離は近づき、ジェーンは亡き妻の人生を取り戻そうとします。ともにスキップドライブ探知システム攻略にあたるなか、ジェーンはロケット砲を被弾し危険な状態に陥りますが、亡き妻からの助けによって、生命をつなぎとめます。 (2021.04)

では、また!