キジしろ文庫

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アイザック・アシモフ「ファウンデーションと地球〈下〉 ―銀河帝国興亡史〈5〉」

あらまし

 盟友ペロラット、ガイア人の女性ブリスとともに地球を探す旅に出たトレヴィズは、まず最初に惑星コンポレロンに向かった。地球に関する記録がことごとく抹消されている中で、その星にだけは地球の伝説が残っているというのだ。わずかな手がかりをもとに、コンポレロンからオーロラ、ついでソラリアへと探索を続けていくトレヴィズ一行が、やがて見つけた地球の姿とは…。圧倒的な人気を誇る巨匠の傑作シリーズ第五弾(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★★★星5 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

  本書では、閉鎖による特異な進化を遂げたことで安定化させた自然や社会にとって、混乱や崩壊を招きかねないヨソ者は、その地へ生命からがら辿り着き、生き延びてきた原初のDNAの原理によって、強引に排除されるべきものとして描かれます。このような生命の危険に曝される中で、トレヴィズの信念は下記のような個人主義から、カベを設けず、ひとつの意識を共有するガイアの思想へと傾きはじめますが、確信を得ることなく、地球に至ります。

個人主義と自己保存に基づく自由競争・自然淘汰や優勝劣敗による進化

全体主義と自己犠牲に基づく自己変革による豊かさや安定、平和と繁栄

 そして、探し当てた地球(月)にいた精神作用力を備えたロボットのダニエルによって、トレヴィズは銀河系宇宙を総括します。

①人類の犯した回復不能の致命的過去の発見

 銀河系は、スペーサーとセツラー間の、疎外・蔑み・欺き・裏切り・憎悪など人間どうしの抑圧と抗争の結果、放射能で焼かれた地球の除染と移民によって形成されたという事実(セツラー、ソラリア、アルファ、月が残った)。

 ②選択判断の確信と人類の更なる夷敵への備え

 ロボット原則があることから、危害のないような人間精神の調整はできないこと、しかし、自らの過ちを認めることができない人間に成り代われるロボットによってはじめて、人間が常に抱える、集団指向による縄張り支配と他者への反抗や敵意に伴う戦争などの自傷・自殺行為という先天的精神疾患人格障害について(セルダン・プランの欠陥)、根本の人間改造の必要から、さらに、ロボット原則に拘束されない人間の意志としての必要から、ガイア・ガラクシアという単一有機体(右手と左手のように、個々は同一でもない、矛盾や対立もしない、ひとつの生命・意識体)が考案された誕生した。(最終的には人間トレヴィズの決断を行っている)

③新たな未知なる存在の出現

 ロボットダニエルは、CPU等の不足を改善するため、エネルギー変換突起をもったソラリア人ファロムを、トレヴィズらに連れ立たたせ、その合体によって引き続き、人類の行く末を見守ろうとした。

 

 以上、人類のあるべき未来や進化といった創造主的な高次の提唱がなされたわけですが、日々の現実との乖離が激しいので、ここで少し立ち戻ってみたいと思います。

 日頃、日常的な干渉や介入にとどまらず、本来自ら解決すべき問題を対人関係へとすり替えられることでイヤな目にあう、いじめ・ひきこもり、パワハラセクハラ・DV、差別や偏見、権力・空気を読む・忖度するなどの不条理なトラブルは、幾度も叫ばれながらも絶えることはありません。

 このような生来の人的エラーに伴う問題は、価値観や信念などの社会的通念を背景に、場当たり的な人への態度教育やマニュアルなどの管理だけでは、権力への利己的な執着など、このような仕組みを肯定し、利益を享受する人間がいる限り、あるいは社会構造を成り立たせているならば、十分な防止には至らないのでしょう。また、個人と集団の関係が曖昧なら、なおさらのことでしょう。

 そこで、本書のように、人格の尊重や共感・対等感などの対人関係にこそ、AIやロボットに任せて創造する人間社会やそのための方法も、解決策のひとつとして有効なのでしょう、もちろん、ロボット原則を前提にして、と思いました。

 なお、どんなに優れた知性が世界をコントロールしても、窺い知ることのできない宇宙の力や意思(超越的絶対者)の存在を前にすれば、謙虚に、懸命に、勇気をもって根気よく道をひらいていく覚悟を忘れてはいけない、とも思いました。

 

 さて以下は、個々の簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)ソラリア(第二のスペーサー世界)

・バンダ―は、群れを嫌い、男女や親子といった対人関係によって生じる正負両面の生理的・精神的な情愛、意見の調整、他者からの視線をも含んだ束縛を嫌い、エネルギー変換突起と精神力変換作用によってロボットを使用し、他者との接触を絶つことで自由を獲得したことで、不満のない生涯孤独の両性具有の全人です。

・興味を示したものの、地球情報を強引に得ようとするトレヴィズの厚かましさに敏感に反応し、精神作用力を講じようとしたバンダ―、また、逃亡中に道案内をさせた後継者の子供のファロムを、人口余剰のために処理しようとした監視ロボット、これらに対しては、いずれもブリスによって難を逃れます。なお、その償いのために、ガイアにはないエネルギー変換突起の研究のために、ブリスはファロムを連れ立ちます。

(2)メルポニア(第三のスペーサー世界)

・廃墟の中、50のスペーサー世界の座標を得ますが、大気消失後も生き残ったCO2を吸収し急速に繁殖する、支配生物の苔が、宇宙服に付いたところで、トレヴィズが人体への危険に気づき、紫外線殺菌をしたうえで退散します。

(3)アルファ・ケンタウリ(50のスペーサー世界の座標のほぼ中心。地球情報を得るべく立ち寄った既知の世界、地球の移民先)

・気象コントロールとバイオ技術が発達したにぎわいと豊饒の楽園で、トレヴィズらは、友好的なもてなしのウラで一方的に侵略行為とみなされます。このため、ヒロコの歓待によってトレヴィズは不活性のウィルスに感染しますが、フルートを奏でたファロムやトレヴィズへの好意によって、逃走を示唆され、この後、地球(月)へと向かいます(ウィルスは時間とともに死滅)。

(2021.03)

では、また!