キジしろ文庫

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フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」

あらまし

 第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では、生きている動物を所有することが地位の象徴となっていた。人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた〈奴隷〉アンドロイド8人の首にかけられた懸賞金を狙って、決死の狩りを始めた!現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界!〔映画化名「ブレードランナー」〕(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、主人公は、アンドロイドに同情や好意を寄せるにもかかわらず、処理を実行していくなかで、共感や生命の尊さに価値を置く世界での人間性などについて考えてしまう内容でした。

 さて、本書では、まず、人間は、生き物の所有の有無による地位、健常者とマル特、人間とアンドロイドといった支配するものとされるものなど、群れをつくり・身をまもる術としての無自覚の差別の意識構造をもつ一方で、やさしさやいたわりなどの共感や感情移入、尊敬や感謝の意も示すといった、善悪トレードオフの複雑な感情をもつことが表されていると思います。

 このため、主人公は、アンドロイドがとったハニートラップとその裏切りに対して許してしまったり、逆に、ピュアなマル特君は、クモの脚を切られたことから、アンドロイドへの差別意識をもったりとします。

 そうして、そのような矛盾や葛藤を抱えながらも生きていくことに、嘆き悩み苦しみ、赦しを願い救いを求める、そんな、おかしな人間性(都合の良さ、自己中心の傲慢)の楽しみもあり悲しみもありについて、述べられているのかなと思いました。

 「どこへ行こうと、人間はまちがったことをするめぐり合わせになる。それがーおのれの本質にもとる行為をいやいやさせられるのが、人生の基本条件じゃ。」作中引用。

 その一方で、主人公の「ハタと思いつく」「機転を利かせる」「行き当たりばったり」的な元気なところが、もうひとつの人間らしさとして、表面にでてくるところなのかもしれません。(2020.06) 

では、また!