パオロ・バチガルピ「ねじまき少女」(上)
あらまし
石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコク。遺伝子組替動物を使役させエネルギーを取り出す工場を経営するアンダースン・レイクは、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物ンガウを手にする。ンガウの調査を始めたアンダースンは、ある夜、クラブで踊る少女型アンドロイドのエミコに出会う。彼とねじまき少女エミコとの出会いは、世界の運命を大きく変えていった。主要SF賞を総なめにした鮮烈作。(文庫本裏表紙より)
よみおえて、おもうこと
雑感・私見レビュー:★★★星3
《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》
本書は、当初、知識や理解・発想の力不足で、混沌輻輳した世界観に馴染めませんでした。なので、少しだけ、コメントです。
とても息苦しく不衛生、困窮と逼迫した世界のなかで、民族や文化が入り乱れ密集し、差別や格差と暴力が行われています。また、救済するべくある宗教(カルマ、因果応報、生まれ変わり)に従いながらも騙し・脅し・裏切りがあり、それぞれのもつ金欲や権力欲・正義感がせめぎ合い、つら抜かれます。このような中で、悩み苦しみながらも、正解の解らない生存競争に勝ち残ろうとする、猛々しく溢れる生命力を感じます。
以下は、簡単なとりまとめです、参考まで。
(1)エネルギー資源の枯渇
⇒ 人間や遺伝子改変動物による労力(カロリー)をぜんまい(ジュール)
に蓄えて利用する社会
⇒ アンダースンは、イエローカードの中国人難民ホク・セン(マレーシアで疫病を
運んだ貿易業者として排斥されました)を雇い、改良型ぜんまいの輸出工場を
経営しています。
⇒ が、不具合に伴う交換タンクや、事故を起こしてしまい、その復旧に必要な
部品調達が(2)の検閲により困難になります。そこで、休業中設備の維持
管理で働く従業員に、新病が発生してしまいます。
⇒ ホク・スンはスラム街のドンである糞の王(廃棄物をメタンガス化している)
と、工場の金庫内の新型ぜんまい設計図と高速貨物船との取引きをもちかけて、
海運王として氏族の復活を果たそうとします。
(2)気候変動による海面上昇や遺伝子操作による農水産物の難病・奇病の蔓延と
人間への危害も発生している社会
⇒ 遺伝子改良作物を製造するカロリー企業が、自由貿易を求め、タイへの外圧
を強めています。
⇒ 種子バンクをもつなど独自の食文化で国を維持しているタイを、環境省
(ジェイディーたち白シャツ隊)は、強引な検疫により、守っています。
⇒ 他方、賄賂を受け取り、密輸を黙認し、外圧と癒着している通産省
(アカラット)は、ジェイディーの妻を監禁のうえ、王家を味方につけて、
ジェイディーに屈辱を与え、失脚させてしまいます。
(3)娼館のねじまき少女エミコ (ご主人様にお仕えするよう遺伝子改変された、
人口減少下の日本でつくられた、出来の悪い人工生命体。タイでは禁止物。)
⇒ アンダースンは、エミコから、絶滅したンガウの復活物を創り出したと思われる
人物の名を聞き、探しはじめます。
⇒ そもそも、アンダースンは(2)のカロリー企業の調査員であるので、
製品開発のため、タイの種子バンクにある遺伝子情報を入手すべく、
(2)のアカラットに近づきます。
⇒ エミコは、アンダースンに惹かれ、お仕えするも、自由を求め、ねじまきたちが
住むと教えられた北部高山地帯をめざそうとします。
(2021.07)
CM
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