キジしろ文庫

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アーシュラ・K・ル・グィン「闇の左手」

あらまし

 遥かなる過去に放棄された人類の植民地、雪と氷に閉ざされた惑星ゲセン。<冬>と呼ばれているこの惑星では、人類の末裔が全銀河に類をみない特異な両性具有の社会を形成してた。この星と外交関係をひらくべくやってきた人類の同盟エクーメンの使節ゲンリー・アイは、まずカルハイド王国を訪れる。だが、異世界での交渉は遅々として進まない。やがて、彼は奇怪な陰謀の渦中へと・・・ヒューゴー、ネビュラ両賞受賞の傑作(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、自他、勇気と恐怖、支配と従属、戦争と平和、質問と解答といった二元論は否定されてはいません。しかし、光は暗闇の左手(P321)とあるように、一対をなすひとつのものを引き出す直観力や感性、その価値や意義が問われているようです。以下、参考です。

P188 無神論者であるということは神に固執しているということなり。神の存在も非存在も立証の場ではほとんど同じことである。ゆえに立証という言葉はハンダラ教徒のあいだではほとんど用いられぬ。従って彼らは神を立証とか所信にかかわる一つの事実としては扱わぬことにしたのである。かくして彼らは悪循環を破り自由に進む。

 いかなる質問が解答不能であるかを知ること、そしてそれらの質問に答えぬこと。この技術は緊迫せる暗黒時代には必要不可欠のものなり。

 さて、以下は簡単にとりまとめたものです、参考まで。

 惑星ゲセンは、シフグレソル(メンツや威信のこと。権力追求に伴う果し合い的会話などをする)や内部の政争に明け暮れるものの、両性具有によって戦争が排除された一元性社会です。このため、エクーメンの星間文化芸術の交流や通商による進歩といった異文化からの価値に興味・関心を示せず、むしろ、主人公のひとりの使節アイは、内部秩序や抗争にとっての道具(排除や拒絶・恐怖や憎悪による支配、謀略による権力拡大)立てと、その使い捨てに過ぎませんでした。

 しかし、抗争によって戦争に発展しかねない国境紛争が起こるなか、エストラーベンは、その回避のためにはアイを必要と考えますが、国王から不信を買ってしまい、追放されます。ふたりは、それぞれ隣国オルゴレインへ渡りますが、アイは、またしても内部闘争に巻き込まれた結果、秘密警察によってイカサマ宇宙人として逮捕され、収容所で監禁クスリ浸けになります。エストラーベンはオルゴレインからも目をつけられますが、アイを救出し、酷寒の氷原を逃避行します。

 そこでふたりは、文化の違い(国王謁見のとりなしを遠回しにやめさせた=戦争に向けた陰謀による暗殺から遠ざけるためといったすれ違い)や性的機能などの差別や偏見に抗い、乗り越えて、親愛や友情を培います。これにより、異星人ではなく、差異を扱わない「人類」として(代謝を伴いながらも混沌と拡大を続ける摂理)の着想に立ち戻り、ゲセンは開国(=戦争回避)を迎えます。

 

(2021.04)

では、また!