キジしろ文庫

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アーサー・C・クラーク「太陽系最後の日」

あらまし

 太陽は七時間後にノヴァと化し、太陽系全体の壊滅は避けられない運命だった。だが、一隻の銀河調査船が、その星系の第三惑星に住む知性体を救うべく全速航行していた! 人類のために奮闘する異星人たちを描いた表題作のほか、名作『幼年期の終り』の原型短篇「守護天使」、作品集初収録の中篇「コマーレのライオン」、大戦中の空軍士官クラークの体験をつづるエッセイ、年譜などを収録した日本版オリジナル短篇集第一弾(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

(1)太陽系最後の日

 ひらひらとした触手、ひとりの双子兄弟、銀河系に散らばる細胞の集合体のひとつなどの異星人たちが、200光年かかった電波信号を検知し、太陽の白色矮星化により消滅する地球の救助に向かいます。降り立ってみると、稼働中の惑星間通信の電波ステーションを残して、放棄された空港、自動地下鉄などがあるのみでした。太陽の爆発の瞬間まで捜索が行われましたが、その存在を見つけることはできませんでした。しかし、その後、その電波の向かう先まで宇宙船を進めると、大船団によって生き延びている人類がいました。異星人たちは、この地球人の進化のスピードに驚異を覚えます。

(2)地中の火

 進化したソナー探査によって、人類が発見した地底都市コーラステオンのレポート。しかし、それは、地上の真空化と絶対零度の環境変化、そして地底人達の出現によって、人類絶滅後の地上で、見たものでした。

(3)歴史のひとこま

 爬虫類の金星人が、絶滅した地球から、直立二足歩行、衣服、自動車などを写したディズニー映画を持ち帰ります。そこから、滅びてしまった高度な文明の知識について、行動や精神の分析など様々な方面での研究を始めてしまいます。

(4)コマーレのライオン

 快楽を貪る「デカダン」と、「人間も複雑なロボットのひとつ」という見方を変えた見識が、とても印象に残ります。

 26世紀末、思考機械(AI)やロボット化(独創力や直観、感情、高度な政治などの判断除く)が高度に進んだことで、既に500年間、人々の興味や関心は芸術や哲学、政治に向かい、宇宙船や交信システムなどテクノロジーは、沈滞し足踏みしている状態(満足・現状維持)の社会です。

 このような思考機械の出現当時は、人間の潜在欲求を読み取り、快楽と幸福を追求する人生を過ごそうとする、デカダン派(悪魔主義や倒錯・病的趣味など頽廃的・虚無的な指向)が席巻しましたが、やがて廃れ、唯一残った都市が、コマーレでした。現在でも、誰一人戻ることのない、”歓喜”と評される謎の都市コマーレは、思考機械第一号を作り上げたソーダ―センが、人類の行き詰まりに係る、ある提案をしましたが、猛反対され失望の果てに、デカダン派がその夢を実現するため、抱き込んだことによるものです。

 ソーダ―センの末裔であるペイトンは、その放棄せざるを得なかった仕事を明らかにすることで、恒星間飛行など沈滞状態を脱し拡大する社会の実現のため、コマーレに乗り込みます。

 コマーレは、人間の潜在的思考や欲望(全ての人がもつ倒錯的で邪悪な欲望)をスキャン・分析し、睡眠などの無意識化で心をコントロールし、求め憧れてきた楽園を注ぎ込むことを、実現しています(思考投射機による幻覚に魅せられる)。

 ペイトンは、その義務感から、その機械回路遮の遮断を試みますが、意思と自意識をもち、相手の心を読むことの出来る、ソーダ―センが製造した究極の傑作ロボットにより遮られます。

P163「あなた、つまり、人間は、非常に複雑なロボットにすぎない」

 そこで、ペイトンは、閉じ込められた人を目覚めさせ、ロボットの基本回路の入手と引き換えに、破壊等せず出ていく取引を持ち掛け、ロボットは了解します。

 しかし、覚醒後も虚構の世界を強く望む人たちから、コマーレは邪悪ではなく、悲嘆・絶望・幻滅など社会不適応者には唯一の平安を与える場でもあることを、知りました。

 そして、ペイトンはソーダ―センのメッセージを、ロボットにより手にし、コマーレを去ります。

P177「わたしは人間と機械のあいだに存在する障壁を打ち砕いた。いまからこの二種族は平等に未来を共有しなくてはいけない」

(5)かくれんぼ

(6)破断の限界

・生死を分ける極限状態では、協力し合う仲間から争いあう敵同士に対人関係が変化することで、日常のルールや善意などの価値観は役立たない。

・逆に、高潔実直であるがために、不快感を覚え憎悪や侮蔑と激情に駆られ、人格崩壊を起こす。そして、半ば強引な正攻法をしかけてしまう。

・むしろ、人の裏をかき、陥れ、追い詰め、弱みにつけいる、そして出し抜き、従え、コントロールする、そのような陰湿・狡猾、執拗な邪悪さ、さらにそのしたたかさが求めらるのかと、思いました。

 乗組員2名では酸素不足となるが、1名なら生存でき救助されるという、隕石の事故にあった貨物宇宙船です。そこでは、制限された時間が迫り、緊張感が高まり神経質になるなか、会話もなくなり、相手の真っ正直で直情的な行動(毒殺)を待ち受けることで、余儀なく自殺に至らしめたチキンレースが行われます。

(7)守護天使

 全知全能のオーバーロードが出現し、50年後にその正体を現すことで、独立自存の自由連盟を懐柔するなどして、世界国家を創設、そして、さかとげのついた尻尾を見た、ところまでという「幼年期の終り」のさわりに相当します。

(8)時の矢

 タイヤ痕のある太古の怪物の足跡を発掘したとき、負のエントロピーを解き明かし、過去を垣間見た教授たちとその研究所は消えました。

(9)海にいたる道

 空中輸送、生活に必要な全てを生産できる物資都合成機の発明により、巨大都市は崩壊し、田園や森に人々は還っていきました。そして、地球外脱出によって分裂し残ったた地球では、習俗を復活させるなどした、ひとつの終局状態に達した状態が5000年続きました。

 他方、分裂後宇宙に向かった人類は、推進力を得ようとして作り上げた〈シグマ・フィールド〉が制御不能となってしまったため、地球を飲み込む前に救出にやってきます。主人公らの旅立ちの決断を迎えます。

 (2021.01)

では、また!