キジしろ文庫

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アーシュラ・K・ル・グィン「影との戦い ゲド戦記1」

あらまし

 アースシーのゴント島に生まれた少年ゲドは、自分に並はずれた力がそなわっているのを知り、真の魔法を学ぶためロークの学院に入る。進歩は早かった。得意になったゲドは、禁じられた魔法で、自らの“影”を呼び出してしまう。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

  本書からは、競争原理を伴う自由意思の弊害である負の感情(怒る、憎む、妬む、悲しむ、恥じる、恐れる、寂しい、罪悪感)は、平和な今の時代や社会が個人に対して押しつけてくるものなのだと思います。したがって、この負の感情については、否定や排除、低減は難しい。なので、本書のいうように、誰もが逃げずに向き合って認めることで、他者にもやさしくなれる関係や社会が築けるのでしょう。

 他方、その是非はつきかねることもあると思います。むしろ、地震やウィルスなどの不測の事態や非常時の淘汰によって、時代や社会が大きく洗練や転換がなされ、押しつけるものが変わってくるのだと思います。

 なので、既にすりこまれた思考をクリアにし、自由に、新たな環境(フロンティア)・創造(パイオニア)といったものへの取組みや備えをしておくことが、大切なのでしょう。 

 さて、以下は本書の簡単なとりまとめです、参考まで。

 

(1)前提

 生命を掌中にできる「真の名」を知り使うことで、ヒトやモノを意のままにすることができる魔法使い、がいる世界が前提です。

(2)ゴント

 ゲドは、まじない師の伯母から、まじないや術を身に付け、略奪にやってきたカルガド人の襲撃を、霧あつめの呪文によって村を救います。これを聞きつけた魔法使いのオジオンが、真の名「ゲド」を命名のうえ弟子に取り、さらに、一人前にするためにローク魔法学院へいくことを薦めました。

(3)ローク

 学院では、術だけでなく、魔法によって明かりをともせば、一方では闇を生み出すことになるという宇宙の均衡があり、その見極めなどを心得ることも学びます。そのようななか、学院でとても有能なゲドは、奢り高ぶり、先輩で領主の息子からの見下しや繰り返される挑発を受け、妬み苛立ちます。そしてゲドは、祭りの夜に、自分の力を見せつけようとして、死者の魂を呼び出した際に現れた「影」に襲われます。現場に駆け付けた学院長に助けられますが、影は身を隠します。

 このように、ゲドは、高慢と憎しみの心によって誤って魔法を使ったがために、呼び出された邪悪な影に憑りつかれることになってしまいます。その後の修練によって、魔法使いとなったゲドは、竜から守ってほしいと派遣を依頼されたペンダーヘ向かいます。

(4)ペンダ―

 島で危篤となった子供を、黄泉の国で引き戻そうとしたゲドは、そこで待ち構えていた影に会います。この後のゲドは、付きまとわれやがては体を奪われてしまうといった夢に苛まされるようになります。ここで、気になって竜退治ができない→島を去るべき→信用台無し・島民危険のため、逆に島を去るべく竜退治に向かいます。竜は、影の名を教えられることを言い出しますが、竜のたくらみに気付き、島に近づかない約束を取り付け、竜退治に成功し、島を去ります。

(5)オリミ―

 ゲドは、依然、影への不安と恐怖がつきないなか、ローク島へ戻ろうとしますが、邪気を寄せ付けまいとする風によって押し戻されたことで、いっそう追い詰められ逃げ出そうとします。そこで、オリミーの埠頭であった男から、影と戦う剣のあるオスキルのテレノン宮殿へいくことを決めます。しかし、オスキル到着後、船に乗り合わせた者が魔物に変化し、ゲドの名を呼び追い、ゲドは魔法の力を奪われるなか、なんとか逃げおおせます。

(6)オスキル

 力を失ったゲドを救ったテレノン宮殿は、人を利用し死霊を呼び出し世を破滅に導こうとする、太古の精霊のものいう石がありました。石は影の名を教えてくれる・石の主人となってあらゆる力をつけ王になるなどの騙しや利用されたことを、ゲドは見破り、石に仕える黒いいきものから、ハヤブサとなって故郷オジオンの元に逃げ戻ります。そこで、オジオンから、逃げてばかりでの危険と災いに会うのではなく、影に向き直り、追い、狩りにいくことを、諭されます。

(7)東海域辺境

  一転して気構えを変え、力を取り戻したゲドは、影を追い、狩り出し、諦めることなく、逆に、薄れる影を追撃します。一度は船上でたじろぐ影を取り押さえたものの逃げられますが、ついに、東海域辺境の黄泉の国の岸辺で、己の影と向き合い、双方名を呼び、ふたりは溶け合いひとつとなり(自分の邪悪な心を認める)、出発したイフィニシュに無事戻りました。

 (2021.05)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!