キジしろ文庫

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ハーラン・エリスン「死の鳥」

あらまし

 25万年の眠りののち、病み衰えた惑星〈地球〉によみがえった男の数奇な運命を描き、ヒューゴー賞/ローカス賞に輝いた表題作「死の鳥」、コンピュータ内部に閉じこめられた男女の驚異の物語―「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」、初期の代表作「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」など、半世紀にわたり、アメリカSF界に君臨するレジェンドの、代表作10篇を収録した日本オリジナル傑作選。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、盲目的に受け止めている支配や制約など既存の価値観や常識、さらにはそれらへの従順的な態度に対する、問い直しや気づき、反発・抵抗・変革とその意識の醸成をはかります。

①「悔い改めよ、ハーレクイン!」とチクタクマンはいった

 異端のハーレクインが、厳しい時間管理(タイムカードと心臓プレートによって、時間の無駄に応じて寿命を削る)を行う、マスタータイムキーパーのチクタクマンらに抵抗する(も洗脳されてしまう)ことで、影響を与える。

②竜討つものにまぼろし

 人生の目標や倫理観が揃う夢の世界で、その夢に値する人間(うぬぼれ、臆病、肉欲)になったところで、逆にもの悲しい喪失感に襲われる。

③おれには口がない、それでもおれは叫ぶ

 知能をもったマスターコンピュータによる人間への憎悪と復讐に対し、コンピュータ内部に閉じ込められ永久寿命となった人間が、仲間を殺すことで一矢を報いる。

④プリティ・マギー・マネーアイズ

 破滅を前にした男の、運命の女との絶望的な一瞬の邂逅(P403解説引用)。

⑤世界の縁にたつ都市をさまよう者

 切り裂きジャックは、未来へ転移したことで、神の御心を想う道義的信仰を消され、内に潜む狂気を表出させた醜業婦を襲うこととなる。これは、孫娘を殺されて嬉しい老人や、身勝手に娯楽を愉しむ未来の花人間たちによって、玩具のように弄ばれ捨てられる道化でしかすぎなかったがために、その汚名を訴えかける。

⑥死の鳥

 元アダムであった主人公スタックと、かつて智慧の実を食べさせた蛇が、断末魔となった世紀末において、ずっと狂ったままの世界を与えてしまった創造主の神を殺めることで、終末を向かえさせる。

⑦鞭打たれた犬たちのうめき

 主人公は、陰惨な刺殺の目撃、暴行や強盗に遭い、恐怖に怯え拒絶しながらも、都市のもつ虚しさや残忍さによって、無感情が高まり、逆に自らものめりこんでしまう。

⑧ランゲルハンス島沖を漂流中 

 主人公は、「わたしの魂の位置の地理座標」をもち、親友の物理学者の力を得て、微小分身となって、あるものを見つけ出すために自らの体内に潜入する。そこでは、発達障碍児として隔離され、人生を無意味に消費した母親を見つけ出すこととなる。さらに、助手の母親(なぜかいる)とともに再度潜入し、冷凍睡眠するなかで、半永久的な内面の心のやり直しを始める。 

⑨ジェフティは五つ 

 5歳のまま成長が止まるだけでなく、周囲の事物をも過去のままにする主人公の友人が、現在という不良の暴行や両親によって死にいたり、煌びやかでかけがえのない過去を抹殺する。

⑩ソフト・モンキー

 黒人ホームレスの老女が、ギャングに襲われながらも難を逃れるなど、まぼろしの赤ん坊を抱くことで、しっかりと生き抜く。

(2020.10)

では、また!