キジしろ文庫

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アイザック・アシモフ「ファウンデーション ―銀河帝国興亡史〈1〉」

あらまし

 第一銀河帝国は、何世紀にもわたってすこしずつ頽廃と崩壊をつづけていた。だが、その事実を理解している人間は、帝国の生んだ最後の天才科学者のハリ・セルダンだけだった! 彼は自ら完成させた心理歴史学を用いて、帝国の滅亡と、その後につづく三万年の暗黒時代を予言したのだ。この暗黒時代をただの千年に短縮するため、セルダンはふたつの”ファウンデーション”を設立したのだが……壮大なスケールで描く宇宙叙事詩(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★★★星5 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、人類は、そのの永続的な繁栄に向けて、

・たとえば、スマホ再生医療など、小型軽量省エネ高性能パーソナルなどの新機能・高品質製品や新サービス、生産の効率化や社会構造の革新など、新たな価値・新世界の創造・発見・享受といった知性の追求に気付くことなく・自覚することなく、

・王・貴族・絶対専制君主などによる帝国や辺境星区では、既にある資産の放蕩・享楽などの利己的な快楽の追求や無為怠惰、好戦的資質が、縄張り争いを含む、安直な他者(ファウンデーション)へのゆすりたかり・威嚇や智略奸計を巡らせ、

 ・武力行使などによる、土地物資・労働力の略奪・支配・搾取、または、よりスケール効果を生じる重厚長大型産業に必要なマーケットの維持拡大・その大規模化に至り、

・他方、格差などの社会の不安定化を生じさせることから、さらに武力拡張などによって、その悪循環を繰り返してしまうといった、無自覚な硬直化が進む。 

・これに対し、ファウンデーションでは、原子力という洗練された科学技術を中核にした宗教、その締め出しに対する貿易(経済)による、人々への豊かさと平和を得るといった新たな仕組み供与することで、自覚を促していく。 

・このような政治社会・科学文化の劣化や腐敗に伴う退化が進み、心理歴史学により滅亡が予測される銀河帝国の混迷の短縮と再興を、資源や自衛力もなく、通信途絶の辺境のファウンデーション後継の指導者たちが、創始者の意志を汲み取りながら、内憂外患の以下の危機を乗り越えていく、という印象のものです。

(第一の危機)

 アナクレオンの領有化要求に対し、ファウンデーションの市長ハーディンは、統治不能のターミナスの管理権限を持つ皇帝直轄の百科事典委員会にクーデターを敢行し、原子力技術の流出不安を他国へ煽ることで相互牽制・回避をし、さらに技術や教育等の援助(宗教)により、軍備よりも繁栄へと関心を向けさせた。しかしながら、当時の屈辱やその後の妬みから敵対準備を進めるアナクレオン(宗教中心地への神聖冒瀆罪になる)に対し、ファウンデーションで技術教育を受けた者達(司祭)へのストライキ命令によって、工場・ライフライン・通信などの停止と巡洋戦艦の帰還をさせたことにより、開戦を回避させることができた。

(第二の危機)

 貿易商のポニェッツは、祖先崇拝のために技術援助(宗教)による商業化を拒むアスコーンで、閉鎖区域への侵入で投獄された貿易商ゴロヴ(ファウンデーションのエージェント)を救おうと向かう。そこで、身代金と錬金術の機械(禁制品)を受け取らせ、ゴロヴを解放させるとともに、逆にその禁制品授受の証拠ビデオによって、積荷の原子機器と錫の取引を行うこととなった。(その維持管理のための自由な出入りや自治権獲得などが進み、アスコーンは、ファウンデーションの一部となった)

(第三の危機)

 市長秘書サットからの情報により、コレル付近で失踪する貿易船と原子兵器所持の調査のため、マロウは商人として、コレルへ出発する。なお、力をつけ、宗教とは切り離された教育を受けた外来者である貿易商人は、社会の不穏分子と、サットらは考えていた。

 マロウは、アスコーンの例から貿易商人と宣教活動禁止としている専制国家コレルに入るが、その際、船内に逃げ込んできたファウンデーションの宣教師を保護せず引き渡してしまう。その後、主席らへの、司祭監督不要の装飾品や生活用機器・工作機械の売り込み、帝国製の原子力武器の所有と原子力発電の確認をし、サットらへの報告を行った。

 帰還したマロウは、同胞を見捨てた殺人罪に問われるが、サットらの指示によるでっち上げの事件であることを、録画ビデオから大衆に訴え、その後、市長兼祭司長となる。

 これにより、マロウは、ファウンデーション侵攻準備を進める、帝国の力を背景にしたコレルに対して、司祭なしの貿易(サットらの従来型の、技術や経済を取り入れてもらうための宗教導入型のシステムからの転換)によって、最も戦闘の少ない戦争の無条件降伏を勝ち取る。

P347 この戦争全体は二つのシステムの間の闘いだ。帝国とファウンデーションとの。大きいものと小さいものとの。かれらはひとつの世界の支配を握るために、賄賂として、戦争はできるが経済的意義のまったくない巨大宇宙戦艦を贈る。われわれはそれと反対に、戦争には役立たないが繁栄と利益には不可欠の小さな物を、賄賂に贈る。

(2021.02)

では、また!