キジしろ文庫

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ジェイムズ・P・ホーガン「巨人たちの星」

あらまし

 冥王星の彼方から届く<巨人たちの星>のガニメアンの通信は、地球人の言葉と、データ伝送コードで送られていた。ということは、この地球はどこからか監視されているに違いない。それも、もうかなり以前から・・・!50000年前に月面で死んだ人々の謎、月が地球の衛星になった謎、ミネルヴァを離れたガニメアンたちの謎など、前2作の謎が見事に解き明かされる、シリーズ第3作!(文庫本表紙見開きより)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、暴力・権力指向で好戦資質の地球人が、骨肉の争いとなった流浪のジェヴレン人を返り討ちにし、永遠の輪廻に葬ります。本来、ウィルスや地震など自然の脅威といった予測や理解不能ななかで、結果として行われる淘汰や進化が、リア充さんたちの人為的選択・自由意思によって確立されるというように、取って代わられています。このため、一線を超えた、道理もなり振りもかまわない、生き残りのための自由競争が、無自覚なままに正当化され、称賛され、手なずけられ、暗示にかかります。

 しかし、むしろ、別の見方から、このような人間性に対して、苦悶し贖罪と救済を永遠に求める、といった自覚を促すことで(暴力や権力指向・好戦資質の原罪化)、過度の残虐性や陰湿さや冷酷さを穏やかなものにしていく努力や変化につながるのかもしれないとも、思いました。このためには、どうしても、ポジティブな姿勢を要しますが。

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)ことのはじまり

ジャイアンツ・スターと月の裏側との一度きりの交信(設置者不明の中継装置によってテューリアンに直達)の数か月後に、ガニメアンの末裔テューリアン(実はジュヴレン)との交信が再開されます。

 しかし、①地球は、シャピアロン号に脅威を与え、放射線兵器による東西対立の惑星間戦争に突入しようとしている、といった情報操作と誤った理解がなされ、②このため、テューリアンから、地球の現状を確認するための対話を求められますが、③国連は曖昧で煮え切らない態度でやり過ごそうとしています。

 出し抜きを狙う米ソ間の中で、木星経由の通信でアメリカはテューリアンを迎え入れます。 

・主人公のハントたちは、アラスカ米軍基地に着陸したボーイング機に偽装したテューリアン宇宙船の中で、VRによってテューリアンを訪れ、まずは監視組織による歪曲情報の誤解が正されます。

・また、テューリアンは、真実を知っているがゆえに、監視組織には不利益となるシャピアロン号の安全を確保しようとし、その捕獲後は、替え玉宇宙船を航行させます。

・国連議長のスヴェレンセンは、月面基地で誑かした女性を使って、秘密裏に地球側の好戦的な態度やテューリアンとの交流を絶つことを伝え、テューリアンとの通信装置を破壊します。また、テューリアン側の通信内容には、独自に交信していたソ連内でも異星人への反感姿勢を示す内容が含まれていました。これらは、監視組織にとっての時間稼ぎをしているということです。

(2)テューリアンと地球との対話

・このようなテューリアン内の監視組織に関連し、人類と意思伝達が可能なAIやVRの存在から、テューリアンにはガニメアンと人類が共存していることが、ハントらによって推察されます。

・他方、テューリアン内では、独立した惑星国家として育てる協力をしてきたジュヴレン人が、地球監視で学んだ、畏敬を植え付け、未開人種を懐柔させ併呑していくといった問題のある協力や、長年の地球虚偽報告、その狙いについて地球人の知恵を借りるべきことが、話されます。

・ガニメアンは、ミネルヴァを立ち去った後も観察を続け、①ミネルヴァは迷信や呪術・儀式・祈祷などの習慣のない現実・合理・科学主義により産業文化が発達した、②大戦争200年前に出現した、冷酷・全体主義で武力制圧を続けるランビア一属の発展によって、ミネルヴァは破壊された、③不干渉方針の結果を見るに耐えきれず、生存者のセリアンは地球へ運び見守り、ランビアはテューリアンに引き取り、地球監視を任せるようになったと、地球人は聞かされます。

(3)ジュヴレンの地球介入

・スヴェレンセンの身辺を洗ってみると、南米のファシスト軍国化・中東紛争などで武器で荒稼ぎをし、反進歩・反科学・反民族・反工業化・反黒人教育の策動をし、その後、一転軍縮を進めてきていました。

P241 支配階級を占める少数派は進歩によって何も得るところがない。歴史を通じて支配階級が常に技術革新に反対の態度を取って来たのはそのためだ。変化が自分たちに利益をもたらす保証がない限り、彼らは腰をあげない。つまり、自分たちが利益を独占するならば進歩も結構というわけだね。

P246 「二つの理念が対立しているんだ。一方に封建貴族がいて、もう一方に職人、技術屋、土木工事屋の共和主義がある。古代奴隷経済においても、教会が知識階級を弾圧した中世ヨーロッパにおいてもこれは同じ。イギリス帝国の植民地主義から、ひいては最近の、東側の共産主義や西側の消費主義に至るまで、この構造は連綿として変わらないんだ」「ひたすら働かせろ。目的に殉じる気持ちにさせろ。ただし、考える閑は与えるな、か。え?」(中略)「教養があって、豊かで、精神的に解放された市民階級の出現を搾取階級は何よりも嫌うんだ。権力というのは富の規制と管理の上に成り立つものだからね。科学技術は無尽蔵の富をもたらす。故に科学技術は規制しなくてはならない。知識と理性は敵である。迷信とまやかしを武器とせよ」

・ルナリアンに比べて地球の文明進歩の遅れの社会学視点からの原因推定

 ガニメアンで技術を吸収したジュヴレンが、仇敵セリアンである地球に対して、工作員を送りこみ、迷信や魔術信仰、神秘主義などの非合理的非科学的精神構造を植え付けてきた、ということです。

・ヴェリコフとスヴェレンセンは地球監視組織として通じていることもわかってきて、その組織に対するコメントです。

P278 形態の如何を問わずすべて圧政者にとって、知識は敵なのだよ。知識は歴史を通じて、いかなるイデオロギーや信仰にもまして多くの人間を貧困と抑圧から解放した。あらゆる隷属は、被抑圧者の奴隷根性に発するんだ」(中略)「この戦いはイデオロギーの問題じゃない。子供たちの意識を解放しようとする者と、彼らテューリアン文明の恩恵を与えまいとする者の激突だよ」

・パーティーに招かれたスヴェレンセン邸宅には、テューリアンの街の模型と、重厚なつくりの要塞拠点があることもわかってきました。

(4)テューリアンとジュヴレンの関係決裂、開戦へ

①ジュヴレンは、テューリアンと地球との直接対話を警戒し、月面通信装置を爆破し、交信はされていないと、たかを括っていました。

②また、対決を望み、力による銀河系支配のため、ジュヴレンの衛星アッタンでの武器製造、軍事訓練など戦時体制を秘密裏に準備しています。

③このため、月の中継装置の破壊に続き、ダミーのシャピアロン号を宇宙機雷によって破壊のうえ、その破壊も異星人に敵意を抱く地球人の仕業とテューリアンに思わせる、虚偽報告に臨みます。

④しかし、テューリアンは、地球人を立ちあわせることで、これまでのジュヴレン側の策謀を認めさせましたが、ジュヴレンは通信を杜絶し、テューリアンとの関係は決裂します。

(文明初期からの反文明・科学や理性の発達妨害工作。堰き止めることが出きない科学産業技術の発達のために戦術転換し、第1次大戦のキッカケ・ロシアの全体主義ナチス・核戦争を計画していた第2次大戦など、激越・大規模な世界戦争による地球自滅を誘導したこと。その破局回避後の、地球を丸腰化する軍縮と、地球の脅威を口実にするジュヴレンの軍備の拡張)。

 なお、対立・戦争・革命・殺戮を繰り返す野蛮な地球人を未開のまま封じ込めなければ、銀河系が地獄絵と化すことなどの屁理屈も、ジュヴレンは述べています。

 また、テューリアンは、以前からのジュヴレンによる地球脅威論を真に受けて、武力ではなく、太陽系を丸ごと封じ込める重力核という隔離技術(最終解決手段)を進めてきたことも、テューリアンから明らかにされました。

(5)人類のいやらしさ、勇ましさ、潔さがピンチを救う

・テューリアンは、ジュヴレンのテューリアン進軍前の制圧のために、自航能力をもつシャピアロン号がジュヴレンの探知を相殺させることで接近し、ジュヴレンのシステムに侵入・破壊するという、正面突破の奇襲作戦を計画し・実行に移しました。

・モスクワ科学アカデミーのヴェリコフは、ジュヴレンの属領化のための地球監視組織の異星人工作員であることを認めたことから、地球側はスヴェレンセン邸の通信遮断が組織壊滅に必要と考えました。

・他方、ジュヴレンによって、重装備の宇宙戦艦が派遣・包囲され、降伏を突き付けられたことから、テューリアンは危機に陥ります。しかし、ここで、地球軍ジュヴレン総攻撃の情報流し込みによる混乱・攪乱といった人類の老獪な戦術(裏をかく・騙す・意地悪・欺く・脅す・煽るといった人類の上手く立ち回る知恵)が、盛り込まれます。

・そこで、当面の艦隊引き揚げのため、また、ジュヴレン側システム侵入の糸口を掴むため、スヴェレンセン邸を攻め落とします。その通信機経由で、地球側に寝返ったヴェリコフによって、テューリアン技術力を背景にした地球連合軍のジュヴレン進攻と粉砕、進撃艦隊の撤退とその移譲を、ジュヴレンへ通告したところで、ジュヴレンのシステムに乱調が起こり、偽情報の流し込みが始まります。

 これにより、ジュヴレン艦隊は撤退し、母星への防衛配備を開始しますが、ジュヴレンのシステムを乗っ取っていたテューリアンシステムによって、バラバラの星域に戻されてしまいます。

(6)終結

・ジュヴレンのシステムが異常を来すなか、テューリアンや地球との交渉も拒絶・孤立化します。ジュヴレンは、このような異常に気づき、システムを停止し、アッタンへ脱出・徹底抗戦を企てます。

・脱出する艦隊を追跡するシャピアロン号の前で、アッタンの環状ブラックホールによるジャンプが、ジャイスターの同一空間での相殺・干渉による不安定・擾乱したまま、艦隊は突入・消え去り、アッタンは降伏します。艦隊は、超空間が閉じる直前の画像から、時空の歪みによってルナリアン戦争200年前のミネルヴァに到着していました。

・背景として、ランビア直系の闘争心や野望、非情の精神を反映させたジュヴレンのシステムが、ジュヴレン人を手なずけたことから、その唯一の障害であるテューリアンを隔離しようとしていたこと、そのためのアッタンでの重力核の整備を進めていた途中だったことがわかりました。  

 (2021.06)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!