キジしろ文庫

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アーサー・C・クラーク「過ぎ去りし日々の光」(下)

あらまし

 ワームカムをもちいた過去の探査によって、キリストの生涯、フェルマーの定理など、歴史上の謎がつぎつぎと解明されていった。しかし、それらの素晴らしい成果とは裏腹に、ワームカムは人々がお互いを監視する道具としても使われていく。やがて、世界中に普及したワームカムは、人類の未来に驚くべき変化をもたらすことになるが!?人類そして地球の過去と未来を見すえた壮大なヴィジョンで描かれる、ハードSFの新地平。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 2/2です。本書は、スマートシュラウド(隠れ蓑)、傲慢な父親と出自いった複雑な親子関係、DNAやクローン、若者たちの中毒症状にも見える特異な脳内ワームカムインプラント化などの個々の奇抜な事象に、とかく眼がいきがちです。

 しかしながら、最後に、ボビー、ダヴィッドが太古からの人類の進化を振り返ったように、彗星衝突による人類滅亡の危機に際しても、以下のようなワームカム技術によって、今後も、人間という姿形は変えながらも、滅びることなく永続する、そのような進化をとげるということが、本書のスジなのでしょう。

 このように、かなり、回り道をしてしまいがちですが、これで、本書の書き出しに戻れる訳です。

①元々見る、聞くといった受動的一方的でしかない装置であっても、自分や周囲に関する異なることのない情報を誰もが自由に得ることで、閉塞された社会や個人の中に、「共有」といった意識変化と思考方法が与えられること。

②ここで、さらに一歩踏み込んで、個々人の知性や感情を相互に共有する結合体となることを受け入れることで、彗星衝突時の一時的退避ができ、その後のリアルとしてのボディへの再生も可能となること(たとえ、死後でも、その人物の精神のコピーによって)。

 以下は、本書の個別のポイントをしぼって、記述したものです、参考まで。

(1)ワームカムが人類にもたらした変化

コロンブスや十字軍は、宗教とカネへの熱狂を原動力(資本主義)にした、略奪と殺戮、破壊と残虐のテロに過ぎなかった。このような修復できない過去という歴史ショック症により信仰の危機となったダヴィッドは、ボビーによって、イエスの生涯を研究するプロジェクトに参加し、事実と向き合い、ワームカム中毒から立ち直ります。

・また、自分や家族・恋人・友人の真実の暴露、学校・会社などの経営者・権力者の不正や犯罪行為、著名人や偉人・歴史的事件の真相の陳腐さ・お粗末さ、逆に、悲惨さなどの受け入れられないことを発見し、一部は、ハイラムを訴訟など怒りの標的としています。 

 ・一方、若者には、全裸や人目を憚ることのない性行為などのタブーも、偽善もない、プライバシーよりも、孤独ではなく帰属感を求めるといった、新たなモラルが形成されるようになります。これにより、結合者が生まれ始めます。

(2)人間模様

・ケートは、敗訴に伴う脳への再プログラミングを恐れ、ボビーの異父妹のメアリーによって、ボビーとともに逃走し、公開性に堪えられず・社会的登録から外れ姿を消した人たちによる地下組織に潜行→しかし、メアリーとケートは、ハイラムに捕り軟禁。

・ケートを逮捕したFBI捜査官メイヴンズは、ケートの冤罪(ハイラムのしわざ)を確認したことから、ダヴィッドへDNA情報を使った追跡ワームカムを提案し、ケートたちの捜索を依頼。これにより、ボビーの出自(クローン)が判明。

・ワームカムの悪影響(メイヴンズの捜査の誤り)

 父から冷たくされたのは、弟のせいという嫉妬と、その父への復讐のために、父を誘惑したうえでの、父の犯行に見せかけた娘の計画的犯行だったにもかかわらず、その後、父は処刑され、母は(真犯人の)娘と再起をする。しかし、ワームカムによる冤罪証明に伴い、その真実と娘の処刑により、母ウィリアムの精神的な恐怖と悲しみにより、その崩壊が始まり、ハイラムに怨恨をもち凶行に及ぶこととなる。

・軟禁されていたケートを訪ねたボビーも捕まる→ハイラムは、大事な会社を誰にも渡したくなく、そのために、自分のクローン(=ボビー)をつくったこと、さらに、ハイラムの言うとおりしなければ、強引にボビーを殺害し、その肉体にハイラムの精神をアップロードしようとしてることがわかる→その場にいた警備員となったウィリアムとハイラムが、大型のワームホール発生器内で揉み合うなか、ふたりはおちていってしまう。

  (2021.01)

では、また!