キジしろ文庫

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アイザック・アシモフ「ファウンデーション 対帝国―銀河帝国興亡史〈2〉」

あらまし

 天才科学者ハリ・セルダンによって辺境のターミナスに”ファウンデーション”が設置されてから二百年が経過した。はじめは百科事典編纂者の小さな共同体として発足したファウンデーションもやがて諸惑星を併合し、着々とその版図を拡大していった。だが、衰退の途にあるとはいえ、いまだ宇宙の人口と富の四分の三を支配している帝国が、最後の狂暴な攻撃をしかけてきた!巨匠が壮大な構想で描く傑作シリーズ第二弾(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★★★星5 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

(1)第四の危機

 帝国とファウンデーションとの戦争は、戦端を開いた将軍リオーズの野心・欲に駆られ抜け駆けしようとするブロドリックの利己心(やっかみ)によって進む一方、下剋上によって奪い取って皇帝となったクレオン二世が、自らを脅かしかねない危険な芽(強い・金持ち・人気の臣下)に疑念不安視(猜疑心)し、摘み取る内部粛清(デマ・でっち上げによる断罪)によって終結します。

 すなわち、ファウンデーションは、沈滞・腐敗した帝国社会が引き起こしてしまう、身内のごたごた・潰し合いなど人間関係に向かう指向性によって、戦争に巻き込まれた恰好であり、むしろ、心理歴史学的に帝国の衰退化・自滅の表れでもあります。

 以下、簡単にまとめましたので、参考まで。

①魔法使いの噂を聞きつけた、シウェナの太守で将軍のリオーズは、それが、個人用のフォース・シールドで身を守った貿易商人がかつて訪れたことや、ファウンデーションによる帝国の再建といったことの話を、シウェナの旧貴族で学者のバーから聞きます。さらに、ファウンデーションでの直接の見聞によって、帝国転覆の危険性の認識だけでなく、バーから、心理歴史学的に帝国の敗北を突き付けられたことで、その戦闘意欲に火が付きます。

②リオーズは、家族を人質に取られたバーとともに、ファウンデーションに向けて進攻するなか、捕虜となった貿易商人のデヴァーズは、帝国には敵対的である(虐殺被害と叛乱の過去をもつ)バーと手を組みます。

③一方、皇帝じきじきの指揮権の象徴となる全権公使として、巧妙に悪事を働き・露骨に快楽を漁る冷酷な寵臣ブロドリックが、皇帝によってリオーズ監視のために派遣されます(将軍を疎ましく思う)。

④ブロドリックは、デヴァーズらを買収し尋問します。その結果、ファウンデーションのもつ金属変成の技術による、帝国経済の大崩壊を止める(戦勝する)ことで、帝位につこうとするリオーズの戦争意図という、内部対立を煽ろうとしたでっち上げを真に受けます。しかし、これが皇帝への大型戦艦増援要請を行い、戦況を攪乱するといった裏目に出てしまいます。

⑤ときを同じくして、リオーズが、フィールド攪乱機などの原子力機器を隠し持っていたことなど、デヴァーズらのうさん臭さに気付いたため、デヴァーズらは逃走します。その際に、偶然奪ったブロドリックからの手紙(究極の目的達成見込み=帝国の征服)をもとに、皇帝接見に臨みますが、その素性がばれてしまい、やはり逃げ延びます。そして、その最中に、リオーズとブロドリックの召喚・逮捕とともに終戦を迎えます。

(2)第五の危機

 平凡な市民ではなく、権力者や異能力者という強者であればこそ、人が人を玩具のように気まぐれに弄び、いたぶり、享楽にも耽るなど、その使い方を誤まれば・・・という、偏見とも思える欲望や価値観のひとつとして、対人関係に指向性を向けがちになってしまう、といった印象でした。以下、参考まで。 

ファウンデーションは、市長の世襲やきびしい徴税など、帝国同様の権威主義に伴う圧政といった堕落と腐敗に満ちていたことから、民主化地下組織や独立貿易商人らによる、変革を求める内戦即発の状態にありました。そのような中、姿を表さないミュール(突然変異体)により、戦闘することもなく惑星カルガンが突如占領され、脅威が迫りはじめます。

②ヘイブンの独立貿易商人のトランとその妻のファウンデーション人ベイタは、新婚旅行先のカルガンで、 逃走手配中のミュールの道化師マグニフィコを保護し、また、国益のために、ミュールを独自に調査するファウンデーション諜報機関のハン・ブリッチャー大尉とともに、ファウンデーションへ脱出します(ミュールの宣戦布告原因。ここで、三人は、心理学者ミスによって、ファウンデーションでの拘留をとかれます。)。

 ※ミュールがトランを操作することで、接近したもの。以降、ミスなども、ミュールが操る。

 ※二人は、大尉から、ミュールとは突然変異体であることを知る。

③このようななか、ホルレッゴールなどが内部の反逆によって次々陥落するなど、ミュールによる戦火は拡大し、ファウンデーションは貿易商人と強引な同盟を結び(当初、貿易商人はミュールと組もうとしていた)応戦しますが、終に、ファウンデーションもが征服されてしまいます。それは、カルガンから得た、原子力機器を無効化する技術と、ミュールによる絶望感・忠誠心など人の感情をコントロールする異能の力によるもので、寝返り・反撃もなく、なす術がない闘いでした。

④四人はその脱出後、不安・不満・敗北感などの感情に覆われたヘイブンにて、ミュールによる危機に対しては、第二ファウンデーションの救援の必要に気付かされます。一方、大尉は、再度ファウンデーションに戻り、ミュール暗殺を試みますが、逆スパイによって見ぬかれ、転向させられてしまいます(後に、ミュールからの危険な目に合わせたくないがために、ミュールの能力をベイタらに教えます)。

⑤四人は、ヘイブン陥落の悲報を耳にしながら、トランターを目指します。その訪問許可を得るために立ち寄った、旧帝国皇帝のいるネオトランターにて、マグニフィコは、皇太子の色情の餌食になりかけたベイタを、ヴィジ・ソナー(楽器)による恐怖と絶望感といった、視聴覚を刺激し幻覚を見せることによって救います。

⑥そして、第二ファウンデーションの位置を探索し、解明した心理学者ミスが、その話をしようとした瞬間、殺されます。なぜなら、未成熟の第二ファウンデーションの時間稼ぎのためには、傍にいた、マグニフィコ=ミュールには、訊かれたくなかったからです(ベイタが感じた、ファウンデーションやネオトランターでの同一感情から、わかった)。

⑦ミュールは、不幸な出自、グロテスクな容姿・振舞い、荒んだ精神などによる嘲笑と虐待からの復讐心から、その能力を使い、思うがままに他人を利用することで、ここまできました。しかし、対等な愛情や優しさをもって接したベイタには、その感情制御の能力使用は不要としていたこにより、つまずいてしまいました。

 このように、ベイタらによって、ミュールによる進攻阻止・決定的危機の回避には成功しました。

(2021.02)

では、また!