キジしろ文庫

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アーサー・C・クラーク「2010年宇宙の旅」

あらまし

 2010年、宇宙船アレクセイ・レオーノフ号は地球を旅立とうとしていた。10年前に遥か木星系で宇宙飛行士4人が死亡、1人が失踪した事件を調査し、遺棄された宇宙船ディスカバリー号を回収することがその任務だった。はたして真相は究明されるのか?そして、木星軌道にいまも浮かぶ謎の物体モノリスの目的とは…前作を上回る壮大なスケールで全世界に興奮を巻き起こした傑作にあらたな序文・あとがきを付した新版。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 人類は、全知全能の気まぐれな大いなる存在による、「実験」と称する、自然淘汰といった試練にれ曝されています。前回、状況をモニタリングするエネルギー生命体となったボーマンには、結果に影響を与えない程度の自由裁量があり、その結果、主人公らはその恩寵に預かることで危機を逃れることができます。今後、人類は、さらにエウロパの太陽系第二の生命の誕生後の実験という、依然、不完全な世界に投げ込まれます。その際には、周囲との尊敬や感謝・信頼関係を築き、勇気を奮い懸命に謙虚に臨まなければ、やがては裁かれることになるのでしょう、と感じました。

 なお、上記のような精神世界、宇宙描写やそのサイエンスだけでなく、宇宙飛行士達やAIが、色恋を含めて、立入りはするけど、もつれ合わないよう、距離をはかりながら、徐々に人間関係を深め・信頼関係を築きあげたり、フロイド博士の妻との別れとやり直し、ボーマンの元恋人との交歓・母への労りと優しさ・HALとの友情(淋しさ)といった、人間味・親近感のある情緒面が多いところが、本書の特徴でもあるかと思います。

 さて、本書の主なポイントをあげてみると、以下のようになります、参考まで。

(1)秘密主義中国の宇宙船が、海賊行為ともなるディスカバリー号とのランデブーへの出し抜きを始めます。先行した中国船は、一旦、エウロパに着陸し、木星以遠への推進剤補水基地とすべく領有を宣言。しかし、氷原に潜み這いずりだす光感受性の幼生物に圧し掛かられ、宇宙船が崩壊し遭難してしまいます。 

(2)レオーノフ号は、木星の大気制動によりイオとの楕円のホーマン軌道に乗り、さらに、軌道減衰しながらその上を転がるディスカバリー号に、EVAによって乗り込み、遠心機稼働と姿勢制御噴射を行い、無事ランデブーします。その後、船内やHALの修復(精神異常後の記憶消去)をし、秤動点にあるモノリスへの接近調査を開始します。そんな中、モノリスから地球を目指す星の動きを確認します。

(3)この星と思われるボーマンは地球を訪ねた後、エウロパ木星で、その壮絶で過酷な環境条件にある、まだ知性をもたない生命体の確認と、木星中心部までの探査といったモニタリングを行います。この時点で、大いなる存在は決意(木星ではなくエウロパを試す)を行い、後の展開はこれに従うこととなります。

(4)まず、ボーマンは、同僚への哀れみの気持ちから、HALを使っての退避警告をします。主人公らは、リスクを下げようと、帰還直前にモノリスの標本採取などの現物調査を行う計画でした。このように、妄想や狂気ととられかねない警告への対応のなかで、モノリスの消失(長居は無用に)、早期脱出に必要な加速(推進剤)のための、木星スィングバイとディスカバリー号のブースター代用案が生まれます。

(5)次に、またも、木星軌道に置き去りとなるディスカバリー号内のHALに対して、その基本任務であるディスカバリー号を危険にしない、という自身の命令に矛盾することをしなければならない、という課題(HALが人間に背くかもしれない)が持ち上がります。前回とは異なり、全て真実を洗いざらい話し、HALに決めさせることになりましたが(非常停止装置を組み込み済みで、手動切り替えも想定)、HALの気持ちは、お別れとなる最終点火時に淋しさによって揺らぎます。しかし、HALは非暴力を浸透させていたことから、冷静に自己犠牲というより大きな判断を行うことができました。

(6)そしてついに、地球への帰還時、木星上にできた増殖するモノリスの大黒斑(木星の水素ガスを重量物質に合成・落下させ、中心部で融合反応)による、木星の爆発による恒星化(退避警告の必要)、その影響下にあるディスカバリー号の、ボーマンによるHALの生命体としての救出と、エウロパに着陸してはならないというメッセージが発信されます。

(7)その後の20001年、エウロパでの氷原からの文明興隆と近隣衛星での地球による植民、それらを見守るモノリス(ボーマンとHAL)がいます。

 (2021.02)

では、また!