キジしろ文庫

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貫井徳郎「慟哭」

あらまし

 連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

    主人公は、情婦の子として顧みられることのなかった父(元大臣)を憎むも、その父により政略結婚を裏で操られてしてしまう。そのような結婚生活でもあるので、妻の不倫があり、それに対する暴力をふるい、さらに暴力を目の当たりにした4歳の娘が自分への怖れと拒絶を表してしまう。また、仕事にかまけて別居状態であり、子供に自分と同じ不幸を招いてしまったことに伴う後悔と強い愛情が、異常にゆがんだ形となってしまったお話です。とくに、このように娘を思う気持ちが、捜査一課長としての強気の作戦(挑発)と、つい忘れてしまったノンキャリアによる名簿流出の一件や、その危険が散見されたにもかかわらず無策だったことにより、最悪の事態を迎えさせたことで、耐え難いものにさせてしまいます。

 スタイルとして、主人公の娘に至るまでの幼女連続誘拐殺人がいつ、誰が行ったのか、新興宗教にのめり込んだ人との関係がありそうな、なさそうなという、叙述トリックがとても見事で、スッカリだまされてしまいました。このほかには、あまり述べるものはありませんが、あえてコメントすると以下の通りです。

①暖かい家庭や家族、出世争いなど自分の思いや望みの満足に妄執し、さらには、それを繰り返さざるを得ない人の性やその不器用さには、慟哭というより、空しさやはかなさを感じます。とくに、我欲を掻き立て、煽り、ほめそやす競争社会の風潮にあっては、このような自己中心の視点を改め、対人関係とはお役にたてることであって、対価や見返りを求めるものではないことなどが、忘れがちなのだろうと思います。なので、「俺が俺がのがを捨てて、おかげおかげのげで生きよ」、おまけです。

②人間のすることにはエラーはつきもの(ゼロはない)なので、大きなハザードを最小化したり、危機管理をしたりとかしとかないと、取り返しのつかないことになってしまう、と考えました。

③「失う」覚悟をもって人と接しなければ、「慟哭」(不幸自慢)するのでしょう。たとえ覚悟があったとしても、それはそれで非情ではあるのだけれども、と感じました。(2020.02)

では、また!