キジしろ文庫

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恩田陸「麦の海に沈む果実」

あらまし

 三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、3月の王国と呼ばれる学園の理事長、校長一族内で起きた跡目争いでした。それは、殺されかねなかった麗子と同じ学園に、その影響で記憶を失った理瀬が転入し、いじめや危険な目にあいながらも記憶を取り戻し、伝説のヒロインとなって目的を果たすというものです。物語は、理瀬を見留めた焦りと憎悪が膨らんだ麗子、理瀬に思いをよせる黎二、無意識に共感する冷徹でドライな一面をもつヨハン、頼れる友人となる憂理といった存在と、華やかで贅沢な学園生活や行事の中で、生徒が一人また一人と亡くなっていきます。読み手の心理には、その死がなかったこととして扱われ、また理由もわからないにもかかわらず、従属的な環境にいなければならない不安と、さらに2月の転入生にまとわる恐怖が高まったところで、安堵するもゾッとする嫌な思いをさせるラストによって締めくくられます。一貫して、メルヘンやファンタジー調で高いドラマ性があって、そのくせ感じた刺激が媚薬のように本能に染みこむものを感じました。

 総じて言えば、本書は、作中あった「女の子はつくられるもの」に集約されるのだと思います。それは、世界一不幸な美少女は、その正義が何であれ、願いをかなえることができ、そして救われることにある。そのための、心を通わせた人が亡くなることで身も心も助けられるなど、無責任な自己中心の傲慢な欲望の満足といったものを、いつのまにか潜在的に心理を刺激し、肯定してしまっているのだな、と感じました。だって、理瀬(私)は2月の転入生は破滅をもたらすという不遇な運命にあい、まわりからの妬みや中傷・いじめを受けるも、助けを呼べない・逃げることもできない監獄のような環境のなかの、きれいで品が良く、どこかうつろで物憂い、現実感の薄い内向的な女の子なのだから。

 まあ、そうは言っても、毎日が楽しくてしょうがないという人だけでなく、人生を捨てたり、投げやりになったり、自信をなくしたりなどと人それぞれでしょうから、夢や可能性など、そもそもの意欲や気持ちに変化を起こす触媒としてはたらくには、とても良かったのだろうなと思いました。美醜善悪はその次ということで。

(2020.02)

 では、また!