キジしろ文庫

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三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」

あらまし

 まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦がころがりこんだ。ペットあずかりに塾の送迎、納屋の整理etc.―ありふれた依頼のはずがこのコンビにかかると何故かきな臭い状況に。多田・行天の魅力全開の第135回直木賞受賞作。 (文庫本裏表紙より)

よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 物語は、前半は少しダラダラしますが、後半はサクサク軽快に進みます。日常生活における家族の問題に起因するような仕事までを請け負う便利屋さんならではなのですが、クセのあるアニメ的キャラと軽い空気感やストーリー展開もあり、また、なぜか最後は救われた感じがして、ほっとして読み終えました。

 どうやら、それは、本書では、いろいろな立ち直りややり直しのエピソードが盛り込まれているからでした。一度は切れた小指が繋がった行天、夜逃げのために預けたチワワと時々再会する小学生、親に愛されずヤクの運び屋まがいの小学生の立ち直り、両親刺殺の友人との友情を取り戻した女子高生、取り違えられた本当の親の様子を知って安心する結婚間近の男性など。

 そして、主人公多田啓介は、やる直せることのできない過去の過ち(不注意による子の死や妻の浮気への復讐心と離婚、その際の現実からの逃避(幸福だけど不満足))に伴う、決して癒えない心のキズ(悔恨)を持っています。多田は、今の現実を直視せず、過去の失敗や後悔にこだわり自分を責めるなど、悩みや悲観を求めるタイプの人のようです。が、しかし、上に述べたような経験をしていくなかで、現実を受け止める勇気を出せば、元通りとはいかないが、修復することはできるということに気がつき、良かった、良かったENDとなります。ほっとする訳です。

 ここで少しだけ、コメントしてみると、以下のようなものでしょうか。

・何らかの一貫性を求めるなら「赦し」や「救い」があった方が、ケジメがついてスッキリするのですが、その辺が少し物足りないと感じるところなのかもしれません。

・うまく行っているエピソードばかりを出して、その気にさせて、自分勝手な思い上がりを増長させてしまうお手盛り話だとも思いました。

・全体的に、興味や関心が自己の欲望をかなえる方向にばかり向いていて、他者への尊敬や感謝の気持ちに関するものがなく、情緒的に偏っているなあ、とも思いました。ただし、これが今のひとつの現実だということも、気に留めなくてはいけないなあとも思いました。

・最後に、あれやこれや理由などを、突きつめるようなものはありませんので、テキトーにサラッと読み流しておくのが、一番良いのだと思いました。(2020.05)

では、また!