キジしろ文庫

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西加奈子「サラバ!」(下)

あらまし

 姉・貴子は、矢田のおばちゃんの遺言を受け取り、海外放浪の旅に出る。一方、公私ともに順風満帆だった歩は、三十歳を過ぎ、あることを機に屈託を抱えていく。
 そんな時、ある芸人の取材で、思わぬ人物と再会する。懐かしい人物との旧交を温めた歩は、彼の来し方を聞いた。
 ある日放浪を続ける姉から一通のメールが届く。ついに帰国するという。しかもビッグニュースを伴って。歩と母の前に現れた姉は美しかった。反対に、歩にはよくないことが起こり続ける。大きなダメージを受けた歩だったが、衝動に駆られ、ある行動を起こすことになる。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

    3/3巻では、主人公歩の恋人の紗智子による姉の取材という裏切りによって、30歳頃からの薄毛に苦しみ気力も失せてしまいます。さらに、その後の恋人澄江の浮気と偶然再会できた須玖と鴻上のお付き合いによって追い討ちをかけられ、打ちのめされてしまいます。そこから、姉(矢田おばちゃんの散骨の放浪から、夫を連れ立っての帰国)、父(離婚理由を聞く)、ヤコブと会うことで、37歳にしてようやく小説家の道を歩むことに腹を決めます。主人公歩の26歳から37歳までのお話ですが、あーながっ、おそっ!。どうやら、姉のことば「貴方が信じるものを、誰かに決めさせてはいけない」がキーワードでした。元気女子を啓発させてくれます。

 この本全体にわたることですが、まず、主人公歩(男性)は女性と置き換えると、その性格や行動がとても理解しやすいです(サラバ!(中)参照)。たとえば、鉄板ネタの三角関係が繰り返し登場し、父、母、主人公が、それぞれはまり込み苦しむところなど、スンナリきます。さて、そのような対人関係へのケジメのつけ方や自分さがしのゴールとして、興味関心を「ヒト」から「コト」へ、「受け身」から「自発的」に、移すことが述べられています。甘えた幼児性からの覚醒ができたように思えました。

    しかしながら、湧き出る人の欲は尽きず、どこまでもこころの満足は得られず、不幸とその苦悩はいつまでも続きます。結局、最初と最後で主人公の自己チューなどには何も変わることはなく、ご都合主義的に世界がまわるお姫さま物語を描いているにすぎません。したがって、そこへの気づきや振り返りをみずから行うことが大切なのだと思います。(2020.03)

 では、また!