キジしろ文庫

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オースン・スコット・カード「エンダ―のゲーム」(上)

あらまし

 地球は恐るべきバガーの二度にわたる侵攻をかろうじて撃退した。容赦なく人々を殺戮し、地球人の呼びかけにまったく答えようとしない昆虫型異星人バガー。その第三次攻撃に備え、優秀な艦隊指揮官を育成すべく、バトル・スクールは設立された。そこで、コンピュータ・ゲームから無重力訓練エリアでの模擬戦闘まで、あらゆる訓練で最高の成績をおさめた天才少年エンダーの成長を描いた、ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞作!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

  1/2です。軍隊式の洗脳を経て、嗜虐心や好戦的資質を顕在化させ、智略奸計を巡らす、この背景にある、人が人を支配し隷属・利用する対人関係を持ち込み、人を嫌悪させ・道具化することに対して、一人ひとりの人間性を尊重することの大切さに気付き、それを敷衍していくことが、本書のポイントなのかと、思料しました。

 それは、リアルの世界であっても、利己心に基づいた他を従えようとする生物的指向性(自己への執着)に抗うことで、自由や平等を愉しめるといった、ところなのでしょう。

(1)バトルスクール入校を条件に第三子として生まれた主人公のエンダ―は、利己心の強いサイコパスの兄からの辛辣なDVを受け、優しい(人をおだてて操る)姉を慕い、さらに、キリスト教や第三子を持ったことで差別扱いされた両親からは、愛情と憎しみを受けながら育ちます。地元の学校でもいじめにあいますが、仕返しを見越し、相手を叩きのめし脅し付けます。これにより、入校テスト合格となりますが、望まれない子であったことから戸惑いながらも、バガーから人類を救うために決心します。

(2)バトルスクールは、厳しい上下関係と罵りや汚い言葉や暴力を伴う無視・蔑み・脅し・妬み・外しといった陰湿ないじめ(ひいきなどスクールの意図的な指導も含む)が日常的に行われています。このため、人間性や人格を無視・弄び、人を道具としてしか見ないがために、誰もが傷つくところです。このようななか、エンダ―は、人を傷付けることのできない、善良で親切な性格である一方、卓越した才気とその努力、そして、そこを見極めた友人たちとの信頼関係によって、一人ひとりを突き崩しながら団結し、リーダーとしての頭角を表していきます。

(3)また、一見、天賦の才を発見し、将校などのリーダーを養成するバトルスクールには、地球内戦に備えた高度な戦略の獲得?、そのための道具としての子供たちの利用といった、浅ましい目的が透けて見えてきます。

(4)このようなコントロール下にあって、エンダ―は、自分の心にある無目的な残虐さに苦悩し、さらに虚無感や絶望があることに気付きはじめます。それは、同様に、自由活動に行っていたRPGでも、不条理な巨人や子供たちとの闘いによって、怒りが高まり、また暴力によって惨たらしくやりこめることで場を支配し前進していましたが、最後の「世界の終わり」で、残虐非道だけでは、トラウマの兄との闘いを乗り越えることができなかったことからも伺えます。

 しかし、姉からの気遣いの手紙(バトルスクールの差し金でしたが)によって、生来持っていた戦う敵への愛情を示すことを悟り(RPGの最後のカベを切り拓く)、自らの選択による自我を確立します。

(5)他方、このように、エンダ―が成長していくなか、兄・姉は、互いの支配を意識した腹の探り合いをしながらも、分裂が進もうとする世界各国への統一のため、ネットを起点とした論議を立てはじめます。

 

P200引用

「いいか、エンダ―、指揮官というのは、おまえが彼らに許すだけの権限しかもたないんだ。おまえが彼らのいうことを聞けば聞くほど、彼らはおまえに権力をふるうんだ」

(2020.11)

では、また!