キジしろ文庫

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江國香織「冷静と情熱のあいだ」

あらまし

 穏やかな恋人と一緒に暮らす、静かで満ち足りた日々。これが私の本当の姿なのだろうか。誰もが羨む生活の中で、空いてしまった心の穴が埋まらない。10年前のあの雨の日に、失ってしまった何よりも大事な人、順正。熱く激しく思いをぶつけあった私と彼は、誰よりも理解しあえたはずだった。けれど今はこの想いすらも届かない―。永遠に忘れられない恋を女性の視点から綴る、赤の物語。 (文庫本裏表紙より)

よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、既に成し遂げることができないがゆえに、あり得ない再会をへて、それは、こころ奪われる恋愛であったことをあらためて刻みつけることができた、ということに、とても満たされる20代後半女性のとてもせつない悲恋のストーリーなのだと受け止めました。

 ここで、少し批判気味に補足すると、主人公のアオイは、洗練されたおしゃれな環境、本を読み、お風呂に入り、ジュエリー店に時々顔を出す優美な暮らしぶり、いたわり、やさしさ、愛情のある周囲の人たちなど、これ以上のものはないほどに満たされています。しかし、アオイの心は、元カレを引きずっているため、現実を受け止められず、満たされません。むしろ、虚しさや淋しさとともにツンツン、トゲトゲして人を寄せ付けないヤッカイな面を持っています。このようななか、やがて訪れる転機は、10年前の元カレとの約束を果たすという奇跡的な誕生日の再会でした。ここで、元カレとのこじらせた思いを通じあえたことで、アオイは現実に立ち戻ることができたというものでした。

 さらに、率直に述べれば、この女性(元カレ含めたふたり)に関して、けっして巻き込まれたくない、近づきたくない人たちだと、思いました。以下その理由です。なのでどこかに毒が仕込まれているかもしれないので「Blu」は読みません。

・自分の胸の内はけっして語らないこと(同類の相手以外には、自分の心は閉ざしている)。

・主人公らは、相手の心のスキマからそっと忍び込み、よりそい、そして心を開かせ、意のままになびかせてしまう、(自分であれば)されてしまうこと(ヒトモノカネだけでなく、人の心をもやりとりしてしまうところ)に、心血をそそぐ人たちであること。

・このための傍若無人で身勝手なさぐり合いと、さらにそれについて無自覚なところに対して気持ち悪さを感じること(再開によって、お互いが心を奪う・奪われるの堂々巡りの関係であることを、心に落とし込んでいる)。(2020.05)

では、また!