キジしろ文庫

ミステリーや文芸小説、啓発書などの感想やレビュー、エンタメや暮らしの体験と発見をおすすめ・紹介!

浅田次郎「椿山課長の七日間」

あらまし

 働き盛りの46歳で突然死した椿山和昭は、家族に別れを告げるために、美女の肉体を借りて七日間だけ“現世”に舞い戻った!親子の絆、捧げ尽くす無償の愛、人と人との縁など、「死後の世界」を涙と笑いで描いて、朝日新聞夕刊連載中から大反響を呼んだ感動巨編、待望の文庫化。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 椿山課長、成城のおぼっちゃま、共進会会長のヤクザ者が、死後の中陰(冥土。現世と来世の中間で、生前の五戒の罪を自覚反省し、極楽往生などに向かうところ)で、相応の事情による異議申立ての結果、現世特別逆送措置にて姿を変えて戻り、おのおのの残された人たちへのやり残しの思いを遂げたたりなどしたのち、再び中陰に戻るという軽いノリでコミカル的でもあるお話です。主なポイントは以下の通りです。

・婚前から今に至る椿山の部下との不倫とその子供という椿山妻子の苦しみと椿山を慕う思い、それを知り椿山と家族のために厳かに見守る父。椿山を愛するがゆえに身を引いた佐田知子。育ての親だけでなく、生みの親への感謝に気づく成城のおぼっちゃま。その思いを、身をもってかなえさせ、さらに冥土でも、「他人のために捧げる無私」を徹底させた椿山の父。そして、これらに気づかされた椿山課長。

・青少年の更生に身をもって、現世でも実行していった共進会会長のヤクザ者。

・その後、中陰に戻り、椿山と成城のおぼっちゃまは極楽往生し、父とヤクザ者は地獄へ行くこととなる。しかし、そこで、椿山は既に亡くなっていた母に父の本当の思いを伝え結末を迎える。

 総じて、この物語をまとめると、以下のようなことかなと思いました。

 私たちは、驕り昂り思いあがった私欲や執着といった邪悪なこころ、人の業に囚われている。このため、自分を思い慕い、あるいは悩み苦しみながらも、自分を支えてくれた人への気づきや感謝には思い至れない。しかし、そのようなまわりのあたたかな気持ちを受け止めることにより、さらに自分がいること(あたえること)で、まわりの人が喜んでくれ、幸せになってくれるのが、自分には何よりうれしいし、今生の幸せである(その結果がたとえ地獄であっても苦にならない)。

 さて、このような人生観や価値観は、戦争経験などの修羅場をくぐらなければ、なかなか語れないものであり、また感じ得ないものだと思えるし、それだけに深みのある内容だったのだと思います。ただ、精進、精進、すべては世のため、人のため、と短絡的に唱える一方、コレばっかりでもないのだと思う。それは、短命に終わらざるを得ないため、次の世代のことを考えなければならない時代から長生きとなった時代への変化があるのだと思う。なので、報われないとか不条理だとか損得勘定をしなければならない時間が長くなったからこそ、さらにでもあり、逆にそれ相応のものもあるのだろうとも、思いしました。(2020.02)

 では、また!