キジしろ文庫

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湊かなえ「未来」

あらまし

「こんにちは、章子。私は20年後のあなた、30歳の章子です。あなたはきっと、これはだれかのイタズラではないかと思っているはず。だけど、これは本物の未来からの手紙なのです」ある日突然、少女に届いた一通の手紙。送り主は未来の自分だという―。家にも学校にも居場所のない、追い詰められた子どもたちを待つ未来とは!? デビュー作『告白』から10年、新たなる代表作の誕生!!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書からは、子の毒親殺しなど、気遣い・助け合う(馴れ合う)昔ながらの構図の延長だけでは、その解決は難しいのだなあと感じました。以下、そのポイントです。

・まず本書は、貧困や性暴力被害の少女たちへの弱者救済の支え合い・助け合いとその対立構造を描き出しています。

・とくに、自我の形成が不十分な少女たち主人公は、浅はかで自分本位、直情的で刹那的に立居振舞ます。

・見方を変えれば、束縛や権力機構からの解放といった価値観や思想、いのちを粗末に扱う激しい思い上がりといった道徳観・倫理観、業や超越的存在といった信仰などに、主人公たちは、思い至り、自己と向き合い、あらがうことはありません。

・このため、母・弟・妹の他者を思いやる・助ける気持ちが顕著に伝播し、それが自己犠牲を伴った敵討ちや復讐となって反射的に反応し、行動に移され、結果、自覚なく際限のない闘争構造に飲み込まれていってしまってます。

・おそらく、性被害者の元担任教師の自殺を断念したドリームランドでの救われたという経験と、性被害者を救おうとして助けられた高校時代の父による手紙が、夢の国という理想を提示することにより、助け合いをすすめるとともに、現実忘却の転換を行ったことで、主人公章子は父同様に、母という性被害者を救おうとするための凶行に至ったたのでしょう。

・また、今後は、章子の母が主人公たちの親殺しの罪をかばうことで、主人公章子たちはその責を問われることはないのでしょう。したがって、これに伴う助け・助けられ、守り・守られといった絆をさらに固くし、贖罪もくわわった行動(性加害者への捨て身の制裁、恵まれない境遇の者への救い)が、さらにその後も繰り返されるのでしょうとも思いました。

・なお、不条理ではありますが、これが進化のための厳しい淘汰である一面とも考えられなくもありません。

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)章子

・章子は、小6時、祖母から、高校時の父の友人の少し頭の弱い妹(母)の実の父・兄の殺人と放火、就職決定後の母との再会とかけおち・やりなおしを聞かされます。しかし、勧められたように祖母の家の子にはならず、父との約束であるママを守るべく、家にもどります。

・やがて、父の病死後も精神障害躁うつ病?)の母親を助けながらも、使用済みナプキンを教室で晒され、臭いなどといじめのターゲットになってしまい、以下の火災もあって、引きこもってしまいます(中2)。しかし、ここで亜里沙の元気付けと力添えで登校をするようになりますが、そんななか父の遺品のFDを智恵理宅で見て、父母の過去を知ることとなります。

・ところで母は、保険金目当てで近づいた早坂(母が働き始めたホテルの料理人)とレンストランを出店します。しかし、経営不振(少年院にいたことで立ち退き署名まで始まる)となり、章子へのDVをはじめたところで、元担任教師(小5)で母のストーカーとなってしまった林が?、ネットへの誹謗中傷のあげく、店へ放火をしてしまいます。

・その後、関係が切れたハズの早坂と母はよりを戻し、介護ヘルパーの人材派遣業を立ち上げた亜里沙の父のもとで、その実、母は売春させられていたことを、亜里沙から聞きます。

(2)亜里沙

・元美容師で事故で指を切断したことで狂暴となった父は、母や弟へのDVだけでなく、母の病死後には、早坂と売春斡旋をツルんだあげくに、弟に男色家の相手までさせてしまい、弟はついに自殺してしまいます。

・逆らうことができず、声も上げられない、約束した「守るべき母」や「助けるべき弟」のために、我慢の限界を超えた章子と亜里沙は早坂・父を、毒殺放火をします。そして、夢と希望の別世界・未来を求めて、ドリームランドへ向かいます。

(3)亜里沙の先輩、智恵理

・章子と亜里沙は、たびたび智恵理の部屋を訪れていましたが、智恵理の母の再婚相手の弁護士からの性的虐待と妊娠・流産によって二重人格者となっており、自宅へ放火してしまいます。

(4)篠宮先生(小4担任)

・元担任教師で章子の入院中の父を見舞い、以下を語ったことから、父からの依頼で章子宛の手紙を書きます。

・父母に捨てられ祖母の下で育ち、その死後に実家に戻った母に、強引に祖母の財産を奪われることとなります。このため、教師となるための学費を稼ぐために、それとは解らずにAV出演を強要されてしまいます(しかも、その後、祖母の遺書が見つかり無駄だったことが後でわかります)。絶望の果ての自殺の前に訪れたドリームランドで「また来たい。よし、また、来よう。そう決めたら、明日から何とかなるんじゃないかって思えた」と感じ、思いとどまり、立ち直り、教職に就きました。なお、その後、章子の担任当時に、AV出演がPTAや先生に発覚し退職してしまいます。

(5)父

・授業のノートを見せてくれたお礼に、中二の妹をいただいた高校時代の父は、友人宅の父娘相姦の現場に出くわします。父娘相姦を知っていた友人の母は、ドリームランド行きを前に睡眠薬自殺し、他方、高校時代の父との、その後のマドレーヌ作りによって、壊れた人形の妹がマトモに戻れる可能性があることをその兄が知ります。

・このようにして兄は、妹を売っていたことへの罪悪感が湧き起こり、父親を毒殺し、その後の放火を高校時代の父に依頼します。高校時代の父は、他人が傷つけられるのは許せず、妹への想いを寄せていたこともあり、引き受けます。

・しかし、当日、ドリームランドへ行っていたはずのその兄も現場で睡眠薬を飲んで居ました。そして、同じくドリームランドへ行かなかった妹が、高校時代の父を現場で追い払い、放火殺人の自首をしてしまいます。従前、高校時代の父は、友人から妹を託されており、逆に、この時は、高校時代の父は、妹から守られてしまいます。その後、高校時代の父は、出所後の友人の妹を守るべく、駆け落ちをします。

(2021.08)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!