キジしろ文庫

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森見登美彦「太陽の塔」

あらまし

 私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、その思いを遂げられず、自我の崩壊を防ぐべく、かずかずの法界悋気(他人の恋愛を妬む)の妄想を経て、やがて現実に立ち戻り、本心を向き合わせたことで、再起する物語です。

 法界悋気の、鬱屈して崇高、ビミョーで硬派、豊かで過酷な妄想とその言動は、学生らしい理屈をこねてバカバカしくて滅茶苦茶な一方で、その拗ね具合やグレるさま、回り道のもどかしさには、自分に重ねてなつかしさやちょっと応援したくなる親近感を覚えました。そのひとつには、登場する彼らの品の良さや愚直さ、厳しさ、懸命さが透けて見えるからなのかもしれないなとも思いました。

    また、対人関係に正面から向き合わずに破天荒をしながら、常に目を背けてきた忍び寄る決定的破綻にモヤモヤとした不安を覚えたり、さらに覚醒にいたり、肩の荷を降ろし、息つくところは、こころのひだをしっかりついているなあ、と思いました。

 さて、彼らの打ちたてた慈愛に満ちた基本理念や正義「我々の日常の90%は、頭の中で起こっている」「みんなが不幸になれば、僕は相対的に幸せになれる」などなどは、その艱難辛苦を経たすえ到達した金字塔であり、本書を読まずして、これらの安易の使用は、事故をも起こしかねません、久しぶりに、笑えました。(2020.01)

 では、また!