江國香織「号泣する準備はできていた」
あらまし
私はたぶん泣きだすべきだったのだ。身も心もみちたりていた恋が終わり、淋しさのあまりねじ切れてしまいそうだったのだから――。濃密な恋がそこなわれていく悲しみを描く表題作のほか、17歳のほろ苦い初デートの思い出を綴った「じゃこじゃこのビスケット」など全12篇。号泣するほどの悲しみが不意におとずれても、きっと大丈夫、切り抜けられる……。そう囁いてくれる直木賞受賞短篇集。(文庫本裏表紙より)
よみおえて、おもうこと
雑感・私見レビュー:★星1
《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》
夫の昔の女性関係を責めて困らせる、昔の自分のデート話をする、行き止まりの同性愛、容易な離婚をもちだす、夫の不倫をいたぶる、かつての恋人への思慕、忘れられない外国人との不倫、医者である夫の浮気、夫とその弟との関係、学生時代からの人・かつての同棲相手とズルズルひきずる、男がいる自分と不倫もしていた男の離婚後の関係といった、過去の情景の回想だけでなく実際にひきずったりする、喪失と所有の非情さを描いた12編の短編集です。
ツンツン、トゲトゲしてオシャレできれい、小利口でお金には困ってない30-40代の女性たちが抱える、満たされない感情を語ります。とくに、孤独・喪失・愛といった感情メインのため、女性向けモノを読むようなめめしさを感じてしまいます、当たり前か。共感・反感・拒絶・無視いろいろな反応がありそうですが、前述のような困った人が多いので、とても子供には読ませられません。でも、それはそれで、しっかり輪郭の際立っている本だと思います。
以下、作中出て来た言葉から、気になった3点を述べます。
「だらしのない女」 女性たちは、喪失するのをわかって、所有していることの非情さを嘆く、相手に確認する。しかし、取り替え引き替えを続けざるを得ない。そのようにくりかえす背景となる、身勝手で強引なあさましいこころや対等感の欠如に、本人は気付けていない。そこが、はたから見ていてイタい。
「うはうはだな」 女性たちは、殺傷沙汰でもおこさない限り、お盛んなことはたいへん結構なこと。活気があってよろしい。ただ、自分の周りには近寄ってほしくはない。面倒なことには、引きずり込まれたり、巻き込まれたくない。
「背徳行為」 自ら望んだ背徳的な行為はとても苦しくも、つきない甘美がある。女性たちはおぼれ、さらに、行く当てなくのめり込む。哀れとも滑稽ともとれる。その前に、ふしだらな関係に、生理的に受け付けられない人が多いかもしれません。(2020.01)