キジしろ文庫

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今村夏子「星の子」

あらまし

 林ちひろは中学3年生。病弱だった娘を救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込み、その信仰が家族の形を歪めていく。野間文芸新人賞を受賞し本屋大賞にもノミネートされた著者の代表作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

    濡れタオルを頭にのせるあやしい宗教に入っている夫婦の次女ちひろが、宗教がらみのなかで、小学生から中学生にかけての多感で不安定な成長期を送っていく。たとえば、姉の家出・両親から遠ざけようとする親戚、級友のからかいや孤立・友人ができる・片思いと失恋、教団の中で陰口で盛り上がる・からまれる・教団を受け入れていく子、悪意や冷めた見方をもった告げ口など。

 主人公は、他の人とは異なる理不尽な境遇に違和感を感じながら、少し冷めた見方を持ち始めつつ、戸惑い葛藤し、自分を見失わないしっかりした気持ちと両親への愛情を持っています。両親は、信仰はあるものの子供の自立などを願う強い愛情を持っています。なので、双方の気持ちを確かめあいながら、脱会や別れをにおわせるラストはじんとくる美しさがあると感じます。つまり、信仰があっても、やっぱり人の子、ふつうの人間のこころは失ってはいない、というやさしい気持ちになれる本なのだな思いました(ポジティブ感想)。

    その一方で、信仰の楽しみや他者へのふてぶてしさが増していくなど、自覚なき洗脳過程が進むさまにも見てとれます(ネガティブ感想その1)。

    さらに述べれば、結末が不明、強引な勧誘や寄付を軽く流したり、いいがかりをつけられた、くいものにされたともとれる表現、集会で孤立した子がメキメキ頭角を現したりなどに、少女のたどたどしい語りや乏しい理解力を都合良く使った、狡猾な作意や悪意がしのばせてあるようにも感じます。たとえれば、「教えの書    星の子」を読まされた、まんまとマインドコントロールされたのだ、と思うと、腹立たしいやら、背筋が寒くなるやら、薄気味悪さを感じたりやらで、作品そのものからひいてしまいした。長くなりましたが、人のこころをもてあそぶ甘い言葉にはご用心、が最後の感想です(ネガティブ感想その2)。

    全体として見れば、話の起伏や広がりも少なく、淡々・ほのぼのした雰囲気で、オチのない終わり方でもあるため、きっと、いろいろな読み方をされる本だろうと思いました。(2020.01)

 では、また!