キジしろ文庫

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小池真理子「モンローが死んだ日」

あらまし

 軽井沢にほど近い、別荘と住宅が混在する静かな森の一画。 2 匹の猫と暮らす59歳の幸村鏡子は、夫を亡くして以来、心身の不調に悩んでいた。意を決してクリニックを受診し、独身で年下の精神科医、高橋と出会う。少しずつ距離を縮め合い、幸福な時を紡ごうとしていた矢先、突然、高橋は鏡子の前から姿を消してしまった……。それぞれの孤独を生きる男女の心の揺れを描いた濃密な心理サスペンス。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書からは、とどまることのない妄想狂と激情に駆られたストーカー行動、常軌を逸した溺愛と共依存などをもった精神異常者ならではの狂気的な倒錯した恋愛感情を、怖いもの見たさ・気持ち悪さを覚えながら最後まで読み進めてしまったことで、鬼畜を思うような罪悪感や背徳感を感じました。また、このような非日常性を求める、潜在する指向性を露わにされたと、思いました。

(1)さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

・10年前ガンで夫に先立たれ、家族もなく孤独な還暦間際の鏡子は、深刻な抑鬱状態となってしまいます(秋)。鏡子は、勤めていた原島文学記念館に、ファンとして訪れ友人となった康代の薦めもあって、宇津木クリニック精神科医で非常勤の高橋医師を受診し、その後快方に向かい診療は終了(1月)します。その後、

・まず、高橋医師の方から、記念館に二度訪れた後、水神の祠のある公園と食事のデートの際、交際宣言をされます。次に、鏡子から亡夫の墓参りをもちかけ、その成り行きで自宅での手料理のもてなしのうえ抱擁に至ります(4月)。そしてついにGWでは交接し、その後は、毎水・土曜夜毎の半同棲の至福の時を過ごします。

 なお、高橋医師には家族の話題などに立ち入らせない何か隠されたものがあり、また、その関係は、高橋医師の人嫌いや、元患者と医師の関係から生じる町の噂、鏡子の控えめさもあって、友人の康代にも話さない内密裡のものでした。

・しかし、突如11月に、一方的に音信もなく、クリニックも辞めてしまい、関係が絶たれます。医師に遊ばれ捨てられた思い、卑怯だと・侮辱だと怒った鏡子は、高橋医師が週前半を務める横浜の総合病院を訪ねます。が、その相手は鏡子の知る高橋医師ではありませんでした。ここで、ついに、高橋医師の正体不明が発覚します。

・鏡子は混乱する中、まず、マリリン・モンローの精神状態を話題にした高橋医師の話から、ネット検索でモンローのモノマネ芸人「川原まりりん」が高橋性で、横浜の総合病院の精神科に入退院を繰り返し、11月に自殺していることがわかります(12月)。

・次に、文学記念館のツテで芸能記者に会い、「川原まりりん」の父は病院職員で高橋性、現在行方不明であることがわかります(1月)。

・さらに、宇津木医師から、本物の高橋医師からの連絡や採用時に医師免許が未確認であったことなどから、高橋医師はなりすましのニセ医者であったことが、判然となります(1月)。

・そのようななか、高橋ニセ医者からの自首する旨の手紙(過食で鬱病で自殺願望の娘を溺愛し、つきっきりの看病と経済的困窮から、診療を行ったことや、そのようななかでも自分と気心が通じた鏡子への思いが綴られた)が届いたことで、やっと、何者だったのか?なぜ関係が絶たれたのか?がわかります(1月)。

・最後に、高橋ニセ医者の執行猶予の判決後、覚めることなく、むしろ高揚しつつ、ふたりは再会します(4月)。

 (2)たくさんでてきた、ネガティブ感情ワードの拾い上げです。

  喪失感、絶望感、ぼんやり、嗚咽、苛立ち、悲しみ、不安、孤独感、さびしさ、倦怠感、疲労感、億劫、憂鬱、悲観的、恐怖、慟哭、発狂、虚無、惨めさ、情けなさ、空洞、寂寥感、鬱、憐れ、塞ぐ、不満、愚痴、疎ましい、歪み、悲哀、心があわだつ、さわつく、猜疑心、虚脱

(2021.05)

 では、また!