ヘミングウェイ「武器よさらば」(下)
あらまし
傷が癒え、再び前線へと戻るフレデリック。しかし戦況は厳しく、イタリア軍は敗走を余儀なくされる。フレデリックは戦線を離脱し、命がけでキャサリンのもとへ帰り着く。結婚を誓い、スイスへ脱出する二人。だが、戦場の中で燃え上がった愛の結末は、あまりにも悲劇的なものだった。(文庫本裏表紙より)
よみおえて、おもうこと
雑感・私見レビュー:★★★星3
《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》
本書上下巻を通じて三点です。
(1)人間の尊重
期待と不安、喜びと悲しみなどを交えながら、ささやかな幸せを求めようとする人間ひとりひとりのかけがえのない生命が、安直で凄惨な狂気による戦争(運命というよりも社会や時代)などの力によって、奪われたり支配されたりする道理はないものだと感じました。
(2)与え合う愛情
物質世界につきものの侵略や生命を奪い合うといった、力の支配(強いものが正しい・善い)が、価値観や倫理観を無意識にすり替える一方で、献身的に注ぐ愛情に伴う魂の気高く、美しく、神々しく、人の心をうつ精神世界が人間存在の本質であろう、感じました。
(3)失われることのない精神世界
本書からは、非情な運命への「絶望」「喪失」「虚無」を感じさせますが、むしろ、生きたくても生きることのできなかった人たちの魂(無念)を切に想い、生きてこそ得られる苦しみや悲しみ、喜びを分かち合い・乗り越え、人生を何倍にもして、まっとうしていくことが大切なのだろうと、感じました。
だから、かつて戦死した恋人のいたキャサリンは、魂からの、最後の最後まで主人公の気持ちを思いやり、いたわりの言葉を伝えたのだろうと思いました。
以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。
・主人公は、送りこまれた前線では敗走のための退却指示を受けます。それは、命令不服従の自軍工兵への主人公による射殺、敵軍に怯える自軍から同行隊員への誤射による死・これに伴う同行隊員の逃亡、合流した退却行軍内での主人公ら将校への粛清の射殺といった、精神が欠格した狂人や痴人のなせるような惨烈の行程でした。
・主人公は、この異様な世界には残す未練もなく、指示に背き軍を離脱します。そして、心通わせるキャサリンとともに、逮捕の手を逃れてスイスへと亡命しました。ついにたどりついた、邪魔立てされない、ふたりだけが創る世界のなかで、ふたりは甘く熱く時を過ごします。
・しかし、今度は、お腹の子どもの死産とキャサリンのお産に伴う死に、主人公は茫然自失します。この容赦のない試練・不条理な運命に、主人公はかけがえのない愛情への喪失感・無力感に陥いり、わたしたちは、とても切なさややるせなさ、そして人生の意味について思い及びます。
(2022.05)
CM
最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。