キジしろ文庫

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J・G・バラード「結晶世界」

あらまし

 忘れられぬ人妻を追って、マタール港に到着した医師サンダーズ。だがそこから先の道はなぜか閉鎖されていた。翌日、港に奇妙な水死体があがった。四日も水につかっていたのにまだぬくもりが残っており、さらに驚くべきことには、死体の片腕は水晶のように結晶化していたのだ。それは全世界が美しい結晶と化そうとする不気味な前兆だった。バラードを代表するオールタイムベスト!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書については、以下の通りです。

・籟病医のサンダーズは、もともと死への親近感を有し、自らも籟を患いながら、背徳行為にのめり込みます。サンダーズの元同僚の妻のスザンヌは、サンダーズとの不実によって、籟を移され発病しはじめ、徐々に厭世的になっていきます。背信の神父バルザスは罪悪感に駆られています。さらに、ベントレスとソーレンセンは、ひとりの女性をめぐって、銃撃し奪い合い、結晶化による生きたままのミイラにしようと、精神異常のなすがままです。みな、異常性・倒錯性をかかえ、むしろ堪能・耽溺しています。

・他方、光り輝く結晶世界には、苦しみ・悲しみ・絶望・虚しさを伴う貧・病・死、悪・罪といった人生に少なからず存在する影がありません。それどころか、時間を失い、意味や目的、理由などの思考や感性などの存在すらもしない飛躍した世界なのでしょう。

・なので、不死性などの究極の異常・倒錯した結晶世界へ、その自覚すら持てない登場人物たちは、願ったり、かなったりの欣喜雀躍、迷うことなく惹きつけられてしまいます。

・全体を通して、本書は、死、破滅や退廃・堕落の耽美や甘美をほめそやし、精神を損ないかける、奇怪な異常性や倒錯への傾向に気付くことなく、人格障害、狂人や廃人へと導きかねない、という毒がこっそりもられていると思えました。

・それゆえに、一皮むいた人間に残る、底なしの欲の深さと、しつこいくらいの執着には、想像以上のものがあると思いました。

P149「<死んだも同然>というのは、うっとりするような言葉ですね、先生。・・・」

P170 <人生は、多彩なるステンド・グラスのドームのごとく、永遠の白き光輝を汚す>

(2021.12)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!