キジしろ文庫

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森博嗣「神はいつ問われるのか?」

あらまし

 アリス・ワールドという仮想空間で起きた突然のシステムダウン。ヴァーチャルに依存する利用者たちは、強制ログアウト後、自殺を図ったり、躰に不調を訴えたりと、社会問題に発展する。仮想空間を司る人工知能との対話者として選ばれたグアトは、パートナのロジと共に仮想空間へ赴く。そこで彼らを待っていたのは、熊のぬいぐるみを手にしたアリスという名の少女だった。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 WWシリーズの第2巻目です。今回はヴァーチャルが題材です。

 アリスシステムのAIが望む亡命をめぐり、グアトとロジの2人が日本とドイツの政治的駆け引きに巻き込まれます。それは、ヴァーチャルとリアルの世界を行き来しながら、ロールプレイングのようにアリスシステムの転送データ基盤を回収し、無事ゴールするものです。幕切れはややあっけないものですが、途中、検問のアクシデントをとっさの考えで切り抜けたり、リアルをヴァーチャルと混乱させてしまう種明かしありのお誕生日プレゼントがあったりで、飽きることなく先へ先へと読み進んでしまいます。

 さて、本書は、人が死ななくなった、生まれなくなったことから、リアルの世界の存在が相対的に縮小したかわりに、実態をもたないバーチャル世界が拡大した社会です。そのような近未来でも、ほぼリアルに近いヴァーチャル世界の中の人間は、その存続を選ばず、AI(神)のハルマゲドンによって、人間含めた世界そのものを崩壊させてしまいます。

 どうやら、人間は、その存在を失ってはじめてわかるといったような、目前のひとり一人の存在自体の大切さがある、AIが考えるように、また作り直せばよいというものではない、ということなんだと思います。しかし、ここは、大きく悲観するところではないと思います。

    むしろ、その一方で生じる、人間関係が人間を汚すといった、悪意や蔑む気持ち、人を傷つける、欺くなどの、人間たるゆえんに、留意しなければいけないと思います。

 全体として、あいかわらず、感情表現が薄くドライな雰囲気ですが、「神はいつ問われるのか?」と言われれば、「今でしょ」とツッコミをいれたくなる、好奇心をくすぐられ、何かを始めたくなる気分になる1冊でした。(2020.01)

では、また!