キジしろ文庫

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森博嗣「幽霊を創出したのは誰か?」

あらまし

 触れ合うことも、声を聞くことも、姿を見ることすら出来ない男女の亡霊。許されぬ恋を悲観して心中した二人は、今なお互いを求めて、小高い丘の上にある古い城跡を彷徨っているという。
 城壁で言い伝えの幽霊を思わせる男女と遭遇したグアトとロジの元を、幽霊になった男性の弟だという老人が訪ねてきた。彼は、兄・ロベルトが、生存している可能性を探っているというのだが。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 WWシリーズの第4巻目です。

 本書では、ヴァーチャル(電子界)へ転移した人間の生命体が、リアル(現実界)に、画像(ホログラム)や音声を使って影響を及ぼす状態のことを「幽霊」と呼ぶのでしょう。それは、グアトとロジを中米の地下洞窟の拠点へ引き寄せるための手段だけではなく、ヴァーチャル界の知性体の将来(知識や思考をコンピュータにトレースした存在、AIが肉体を持たない知性(子)を誕生させ、ヴァーチャルからリアルへ自由に行き来するなど)を見据えた社会構築の展望を語ることで、リアル界での未練(リンダとの悲恋、弟ヴィリとの決別)を断ち切るものだったのでしょう(リアル界の人間に、ただ認めてもらいたかっただけなのかもしれません)。

 さて、これまで、自由を妨げる束縛や平等を阻む差別、さらにリアル界での制約となる存在に対する死などのリアル界での不条理や理不尽な矛盾に応えて、人類や文明は進歩・繁栄してきたのでしょう。しかしながら、ここにきて、リアル界とは別に並在するヴァーチャル界の存立は、これまでリアル界という与条件からスタートする一辺倒であった思考やその他の境界条件を変え(与えられたもの・探し出したものから、創りだしたもの・さらにNEXTという世界)、その思考や価値観、自由意志といった存在の規定や標準すら変えてしまうものかと思います。このような自らの姿形だけでなく知性をも変容しかねない、人間の欲望や執着の執拗さが背景に潜むことにあらためて考えさせられました。

「ヴァーチャルのデータは誰かが入力したものだ。最初にその意思がある。(中略)そして、あらゆるデータは、なんらかのフィルタを通った、いわばクリーンなものになる。自然であっても、有害なものはヴァーチャルには取り入れられない。(中略)人間は、クリーンなものが好きで、クリーンな環境に憧れている。ストレスのない自由にも憧れている。それは。リアルが、けっしてクリーンではないからだ。では、ヴァーチャルでは、人は何に憧れるのだろう。」(作中引用)

 それでは、以下、本書の要点のみをおさらいです。

・トレンメル家:金融と電力事業、さらにヴァーチャルだけでなくリアルとの往復(流通、手数料)も扱う事業を営む。

・ヴィリ・トレンメル:グアトとロジがトレンメルの別荘に招待された際に、運転手が狙撃、回復するも杖を置いて失踪し不明になる。(2020.06)

では、また!