ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「たったひとつの冴えたやりかた」
あらまし
やった、ようやく宇宙に行ける!星の世界を夢見るコーディーは、16歳の誕生日に両親からプレゼントされた小型スペースクーペを改造して、憧れの銀河へ旅立った。だが、冷凍睡眠から覚めた彼女を意外な驚きが待っていた。頭の中に未知のエイリアン、イーアが住みついてしまったのだ。コーディーは、このエイリアンと意気投合し、冒険の旅を続けるが・・・少女の愛と勇気と友情を描く感動の表題作ほか、全三篇を収録(文庫本裏表紙より)
よみおえて、おもうこと
雑感・私見レビュー:★星1
《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》
本書は、犠牲や自らの死といった苦難、不条理 を乗り越えることができる「友情」「愛」そして、それらを含めた「信じること」を物語ります。全体的に、欲望・嫌らしさ・心のもつれから生じる葛藤や苦悩といった人間の内面の弱さを感じるところが少なく、優等生的で、道徳の本のようだと感じる分、物足りない思いにもなります。
助けたことで体内に棲みつき、友人となったエイリアン(ウィルスのようなもの)が徐々に獰猛化してしまいます。主人公は、様子のおかしい補給船を追いつつ、また、エイリアンを返すべく基地へ戻ろうとしますが、他への感染を防ぐために、宿主である自らと変貌しつつあるかつての友人との死を、お互いが選択します。それは、決して恨むのではなく、むしろ互いに認め合った、かけがえのないすばらしい友情の思いがあったからできたことでした。
「グッドナイト、スイートハーツ」
主人公は、救助に際し遭遇したかつての恋人とその孫クローンに心を動かされながら、自らの身を賭して、宙族から二人の命を救います。それは、失った恋人を取り戻した共に過ごした至福の時間など、心奪われる愛の極致と充足があったからこそだったことを思い起こし、その純粋な思いに心が満たされます。
「衝突」
主人公たちは、捕縛や追撃を受け、二人の犠牲者をだしながらも、猜疑心が強く頑なな異星人の窮地を二度も助けるなどし、無事帰還することができます。その際には、態度を変えない異星人による大戦発展の危機に対して、銃口を向けられながらも最後まで友好を保ち、自らの生死をゆだねることまでしたことで、信頼関係を得ることができたからでした。
(2020.10)