キジしろ文庫

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フィリップ・K・ディック「高い城の男」

あらまし

 アメリカ美術工芸品商会を経営するチルダンは、通商代表部の田上に平身低頭して商品の説明をしていた。ここ、サンフランシスコは、現在日本の勢力下にある。第二次大戦が枢軸国側の勝利に終わり、いまや日本とドイツの二大国家が世界を支配しているのだ--。第二次大戦の勝敗が逆転した世界を舞台に、現実と虚構との微妙なバランスを緻密な構成と迫真の筆致で書きあげた、1963年度ヒューゴー賞受賞の鬼才ディックの最高傑作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書を読むと、現在の自由平等(?)な社会の中で、それとは逆転した悲惨な世界の「高い城の男」を読む私たちと、まったく同様にして、「イナゴ」本を読むジュリアナたち、といった、本を境に、双方が易経によって、鏡像関係のようにどちらもが他の世界の存在を真実と受け止めざるを得なくなってしまうことを感じます(境界不明)。なので、この手にした本を妖しく思い、また、自己の認識・理性への疑いが始まることで、とても怖く不安になってしまうことを感じてしまいます。以下、簡単にまとめます。

・背景として、ドイツ内部の熾烈な政権抗争(諜報・工作員・暗殺者の暗躍、狂気・狂信的で冷淡・無謀なナチスユダヤ人差別や金権腐敗、宇宙開発や地中海干拓だけでなく、水爆投下というタンポポ作戦による日本制圧)が、現首相のボルマンの逝去をキッカケに、他国を巻き込んで更に激化・不安定化する世界です。

・まず、反タンポポ作戦のドイツ国防軍情報部のヴェゲナー(ユダヤ人SS)は、プラスチック技術を扱うスウェーデン人を装い、第一通商代表団の田上との商談を名目にして、日本の元参謀総長の力を借りようと密会します。

・そこで、田上は、その現場に踏み込んだドイツSDコマンド隊を射殺しますが、そのショックによる心の整理をしようと、美術工芸品店のチルダンから得た装身具の”道(タオ)”の力によって、真の別世界(フリーウェイや媚びない白人たち)があることを垣間見ます。

・なお、その装身具は、工場を解雇されたフリンクが、易経の教えにしたがってつくって持ち込んだものでした。また、チルダンは店を訪れたカジウラ夫妻宅で、そのような装身具の模造大量生産化の儲け話を断ります。

 ・他方、フリンクの元妻ジュリアナは、「イナゴ」本作者のホーソーンを殺害しようとする工作員接触し・利用されてしまいますが、撃退のうえ易経に従い単独面会にこぎつけます。そこでは、「イナゴ」本は、易経にしたがって書かかれたものであり、しかも、その場で占った易経によれば、「イナゴ」本の世界こそが、真実の世界の存在を告げている(アメリカの分割統治などの世界がニセもの)ことがわかります。

(2020.10)

では、また!