キジしろ文庫

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京極夏彦「邪魅の雫」(下)

あらまし

「私の世界は、小さなひと雫の漆黒に凝縮されてしまった」。終わることのない殺人の連鎖。蜃気楼のように浮かびあがっては消える犯人像、そして榎木津と事件の繋がりも見えずにいた。そんな状況下、京極堂は、自らの世界の終焉を悟った男と対峙する。滅びゆく世界を遺すために―。圧巻のクライマックス。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 3/3分割です。失恋を引き受けることを自覚するに至るまでの、嫉妬に伴う代償は、とても悲惨なものとなりました。神崎宏美は、榎木津への想いを持ち続け、周囲の人間に嘘はつくものの誘導はせず、密かに製造された青酸毒に背中を押させる形で、自分の邪な気持ちを実行させるべく託していたことが、明らかとなりました。以下は、本書を読んだとしてもとてもややこしいのですが、主な事態の解明編になります。

 所轄での4人(澤井、来宮、宇都木、赤木)連続毒殺事件の捜査会議後、益田・関口チームと青木(小松川署)チームが合流するさなか、誰もいない商人宿で江藤が毒殺される。さらに、不審者扱いされていた榎木津も合流したところで、6人目の大鷹殺害の報がもたさられ、京極堂が幕をひきます。

・西田は、好意を寄せていた宇都木実菜の復讐のため、つけ回していた大鷹を殺害(←神崎が仇討ちの報告をするよう差し向ける)。

・澤井は、戦中、防疫給水部隊に属しており、岩崎製薬が完成させた青酸毒「しずく」を知り、孫娘の神崎宏美にしつこく引き渡しを迫ってきた。そこで、榎木津の縁談相手の宇都木・来宮・福山さんへの強姦と恐喝を行い、さらに神崎も強請られしまい、身を隠すこととなった。

・姉の復讐のため、来宮小百合は、澤井を毒殺(←神崎が手渡す)する。他方、赤木は、宇都木実菜(←神崎)に好意をよせ、そのような小百合の身を案じていたため、澤井の行動の監視を依頼されていた。

・神崎は、赤木と小百合を保養所に匿うも、小百合は葛藤・迷うなか(償えないどす黒い想い)、居合わせた江藤によって毒殺される。しかし、その様子を赤木に見られてしまう。

・赤木は、義憤に駆られ、澤井を操る縁談破壊工作の首謀者という宇都木実菜(←神崎が嫉妬し吹き込む)を毒殺し、また、神崎は、縁談再開を止めるべく、大鷹につけ回し(大鷹は赤木に対する身辺護衛という理由もあった)を依頼していた。

・江藤は、好意を寄せていた宇都木実菜の復讐のため(もう一度、毒を使ってみたかった)、赤木を毒殺する。

・大鷹は、護衛していた女性と赤木の死は自分の所為と思い込み、自分が解決すべきと考え、江藤(大鷹は、付けまわしていた人物)ともみ合う中、偶発的に江藤が毒をかぶってしまう(←神崎が、大鷹のいる商人宿へ、江藤を引き入れる)

 さて、いいがかりや恫喝・挑発を受けやすく、優柔不断で誰かによりすがろうとする。他方、自己本位で他者を巻き込み・顧みようとしない、激しい自己への執着や思い上がりがあり、世界は自分のためにあるなど、そのあげく他者を羨み・蔑み・見下し・干渉する、ほんとうにイヤな性格の主人公神崎宏美でした。

 しかしながら、このような不条理な世界であることを感じること、さらに、そのために理性や言葉では表せない何かを求める・信じる気持ちがあることを、いつの間にか自己投影しながら、本書に引き込まれてしまう、無意識の何かがあるのだなと思いました。(2020.08)

では、また!