アーシュラ・K・ル・グィン「風の十二方位」
あらまし
銀河のかなたのフォーマルハウト第二惑星で、セムリは<海の眼>と呼ばれる首飾りを夫ダハールに贈ろうとするが・・・第一長篇『ロカノンの世界』序章となった「セムリの首飾り」をはじめ<ゲド戦記>と同じく魔法の支配する多島世界を舞台とした「解放の呪文」と「名前の掟」、『闇の左手』の姉妹中篇「冬の王」、ヒューゴー賞受賞作「オメラスから歩み去る人々」、ネピュラ賞受賞作「革命前夜」など17篇を収録する傑作集(文庫本裏表紙より)
よみおえて、おもうこと
雑感・私見レビュー:★星1
《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》
本書は、孤独と愛・死、創造など多岐にわたる17の短編集でした。
1 セムリの首飾り
貧しい領主のもとに嫁いだセムリは、先祖由来の盗まれてしまった首飾りを贈るべく探し、それとは解らず高速船で時空を超えた博物館を訪れます。そこで首飾りを取り戻し帰ってきたものの、領主は7年前に亡くなっていました。
2 四月は巴里
世紀を越えても同じ建物に住むなどしている者同士の孤独が、錬金術師が使う魔術によって共有され癒されます。
3 マスターズ
大学の僧から、発明と計算の異端の罪によって告発されますが、同輩の犠牲によって、真理の探究の自由は否定されません。
4 暗闇の箱
王位継承をめぐる兄弟間の戦いが、放たれた暗闇によって、大義を得ます。
5 解放の呪文
呪縛をかけられ、墓に封じ込められた魔法使いは、生きないことを選ぶことで、黄泉の国で邪悪な魔力を消し去ります。
6 名前の掟
役立たずの魔法使いとして変装していた竜が、宝を奪い返されようとして真の名前を知られたことで、本来の姿に立ち戻ります。
7 冬の王
誘拐監禁の際に精神操作された王が、その狙いを外すために逃亡したものの、国を滅びかけさせている世継ぎの子を討伐しました。
8 グッド・トリップ
LSDに手を出して、トリップしそうになります。
9 九つのいのち
知能や行動パターンが同じで集団となったクローン人間が、突然の事故によってひとり取り残されます。しかし、孤独・無気力を感じるからこそ、異なる他者と手をつなぎ合うことに気付き始めます。
10 もの
レンガや子ども、言葉などが少しずつ劣化していくことを、迎えいれなければなりません。
11 記憶への旅
名のない無秩序で混沌と、名のある孤独の世界。
12 帝国よりも大きくゆるやかに
コミュニケーション機能が欠落しているために、残忍で傲慢、自己顕示と自己中心の自閉症患者や森(孤独)に対して無意識に抱く、憎悪・恐怖・嫌悪・攻撃・侮辱・敵意といった拒絶が鏡像のようにして、自分に撥ね返されます。オスデンは、森の恐怖や拒絶を取り込み・受け入れ、自我を明け渡します。
13 地底の星
異端の天文学者が逃げ隠れた坑道内で、今度は地底の星を観察します。
14 視野
火星探査の結果、視聴覚や認識機能、精神に異常をきたします。
15 相対性
死という絶対的存在を見誤るようになってしまう、相対性に溢れる自動車社会。
16 オメラスから歩み去る人々
不幸や犠牲のもとに成り立つ幸福や繁栄といった、暗黙の不均衡な構造を顕在化させています。
17 革命前夜
無政府主義革命家の孤独な晩年。
(2021.06)
CM
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