キジしろ文庫

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京極夏彦「狂骨の夢」(下)

あらまし

「実に、見事な左道であった」。謎の寺院、聖宝院文殊寺に乗り込んだ京極堂。白丘、降旗、そして朱美…、照魔鏡をかかげるがごとく記憶の深淵が明らかにされたとき、歴史の底に凝っていた妄執が、数百年の時空を超えて昭和の御代に甦る。いくつもの惨劇を引き起こした邪念は果たして祓い落とせるのか。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

    もう長々書くつもりはありません。まず、ここ(3/3)では、これまでの事態の決着がつきます。それは、当件は、千数百年にも及ぶなどの三者の髑髏争奪戦にくわえて、父に代わった民江の自我喪失までになりかねない拷問や呪縛のなかでの憧れと嫉みや視覚失認症、その兄の憎しみによる復讐などが、得体のしれない邪気にあたることで、あちら側に超えてしまったことによって起きた惨劇でした。なお、むしろ巻き込まれた被害者でもある朱美と民江、懊悩を抱えた白丘や降籏らは、京極堂の憑物落としによって、こちら側に戻ることができました。

①国譲りで敗走し腕をもぎとられた建御名方神を、反魂術により復活させ、雪辱を果たそうとした怨念(たとえば、神人が行った申義の首切断による偽装など)

②途絶えた南朝後醍醐天皇の系統を継ぎ、髑髏本尊と性的儀式による真言密教立川流の過った信仰により、万能の力を得て皇位奪回しようとした執念(朱美一家の焼殺、民江らへの強制洗脳、儀式失敗による集団自殺

③病父への申義の異常な孝行心・我欲(本草網目にある髑髏を使った至上の霊薬を作り、その一人占めをするなど)

    総じて、当書では、「狂骨」というように、死後の人の心や意識、魂といったもの、さらにその復活、あるいは動機や理由などでは語れない何ものかといった、私たち人間のもつ知性や感性では認知しえないもの、解ることではなく信じることでしかあり得ないもの、について語られたのだと思います。このため、挫折や虚しさ、不条理、不遇など環境や経験によって、ミステリー、ホラー、思想・心理などの捉え方が変わるし、評価やそのベクトルも異なる本なのだと思います。

    他方、目的的に考えれば、他者への強い干渉に至るといった対人関係の難しさを、感じさせる本だと思いました。また、それは優勝劣敗の厳しい生存競争にからめとられ、失うことで初めてわかる一人ひとり生きていることの大切さ、が欠如していることの表れでもあろうかと思いました。その点が、最後の兄の痛烈な悔恨の思いに至ったところは、まさに救いであり、いろいろな読み方をさせてくれる本なのだと思いました。(2020.02) 

では、また!