キジしろ文庫

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ダン・シモンズ「ハイペリオン」(上)

あらまし

 28世紀、宇宙に進出した人類を統べる連邦政府を震撼させる事態が発生した!時を超越する殺戮者シュライクを封じこめた謎の遺跡―古来より辺境の惑星ハイペリオンに存在し、人々の畏怖と信仰を集める<時間の墓標>が開きはじめたというのだ。時を同じくして、宇宙の蛮族アウスターがハイペリオンへ大挙侵攻を開始。連邦は敵よりも早く“時間の墓標”の謎を解明すべく、七人の男女をハイペリオンへと送りだしたが…。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、人類の英知と限界、その存亡含めた世界の創造と破滅に関わる、多面的要素や複雑な構造を、多様に視点を変え時を移して俯瞰するなかで、個別の事情にスポットライトをあてた、一つひとつが愉しまれるべきストーリーであるとともに、その敷衍の先にある、織りなされる世界観に興味が惹きつけられます。

 そうではあっても、しかし、発端となったトラブルの究明や巡礼者による展開すらにも至らず、その本意がつかめいままの美醜混沌としたグロテスクさには、没入や堪能よりも食傷気味で、さらに、知的な刺激や溢れる情緒よりもむしろ、気もそぞろ・不満や空疎な虚脱感ばかりが残るまま、ついに放り出されて終わったという印象です。

(1)背景

 ・地球滅亡後、転位システムという、いわゆる、どこでもドアによって瞬時に惑星間の移動ができる宇宙内連邦が設立されており、その一方で、宇宙空間で活動・侵略行為を続ける蛮族アウスターが、惑星ハイオペリオンに侵攻したことで、その攻防が始まるところから始まります。

・そのハイペリオンには、時空の歪みを生じさせる?などの謎に満ちた「時間の墓標」があり、連邦やアウスターとは一線を画してきました。また、ハイペリオンでは、怠惰で不遜な人間に裁きを与え、終末を迎えさせる・逆に願いをかなえるという、シュライクがおり、教団も設立されています。現状、ハイペリオンでは、時間の墓標に異変が起き、それに伴ってシュライクが時空を超え・姿形を変えて殺戮を繰り返しています。

・そのようななかで、連邦とシュライク教団によって調査に選抜された7人が巡礼者として、時間の墓標に向かい、到着したところでこの上下巻は終わりになります。彼らは、直接・間接的にシュライクやアウスターとの関わりがあったため、一旦は失われた信仰・愛情・創意などに傷ついた(受難・苦境)ものの、シュライクらに対するそのケリをつけるといった動機を持っており、到着するまでの間に各自それぞれの身の上話がなされます。なお、願いがかなえられるのは、ひとりという伝説だそうです。

(2)ホイト神父

 ホイト神父は、キリスト教発祥遺跡証拠捏造のためハイペリオンに左遷された際の、デュレ神父の随行者です。デュレ神父は、ハイペリオン開拓事故の生き残りと考えられ、大峡谷にいる無性・発達障害傾向のビクラ族を文化研究目的で訪ねます。ピクラ族は、体に十字架が貼りついており、その十字架によって死後何度でも再生します。デュレ神父は、ビクラ族が信仰する聖堂・迷宮にて、シュライクに引き合わされ、容認されます。これにより、ビクラ族の一員として十字架を貼り付けられてしまいます。その十字架は、大峡谷を離れると激痛を引き起こします。デュレ神父は、聖堂などの歴史的発見を伝えるために脱出しますが、シュライクによって磔刑に処せられました。その捜索にあたり戻ったホイト神父にも同様、十字架が貼りついており、激痛に苦しんでいます。

(3)カッサード大佐

 大佐は、VRシミュレーション、アウスターとのブレシアでの実戦などのなかに、繰り返し顕れ危機を救う、謎の女性に焦がれ落ちてしまいます。そのようななか、襲撃を受けハイペリオンに逃げ切った大佐は、追いかけるアウスターを、シュライク・女性とともに時間進行率が変えることができる戦闘スーツを与えられたたことで、撃退します。しかし、その後の交わりの最中、女性はシュライクに変身し、寸でのところで身を離したところで、女性は元の姿に戻ります。なお、ここで、シュライクは未来から目的をもって、現在での行動を起こしていることが語られており、大佐は復讐を求めています。

(4)サイリーナス

 サイリーナスは、裕福な家庭に生まれ育ちますが、その贅沢とは裏腹の借財の担保となってしまい、肉体労働生活が始まります。そんななか、詩作を続けたことでベストセラーを生みますが、相変わらず巨万の富に溺れます。再度、破産状態のなかでも詩作を続けるべく、文学・芸術を重愛するビリー悲嘆王に、認められ身を寄せます。その後、ハイペリオンに遷都・開拓が進みますが、詩想は戻らず自殺をも考えます。そのようななか、シュライクの殺戮が始まる一方、廃都し荒廃する都にあって、人類の傲慢が滅亡に導くといった詩篇の創作を始めます。サイリーナスは、詩の呪術力によって、シュライクを召喚したと考えており、サイリーナスを訪ねたビリーは、その詩を発見し原稿を燃やします。しかし、そこへ現れたシュライクによって、ビリーは棘に刺し抜かれてしまい、サイリーナスによって、シュライクとビリーは火をつけられてしまいます。サイリーナスには、詩の完成への無念と執着がわだかまっています。 

 (2021.01)

では、また!