キジしろ文庫

ミステリーや文芸小説、啓発書などの感想やレビュー、エンタメや暮らしの体験と発見をおすすめ・紹介!

宮下奈都「スコーレNO.4」

あらまし

 自由奔放な妹・七葉に比べて自分は平凡だと思っている女の子・津川麻子。そんな彼女も、中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレ(学校)と出会い、少女から女性へと変わっていく。そして、彼女が遅まきながらやっと気づいた自分のいちばん大切なものとは…。ひとりの女性が悩み苦しみながらも成長する姿を淡く切なく美しく描きあげた傑作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 NO.1は、家族友人、NO.2は恋愛、NO.3は仕事、NO.4は結婚、とステージを経験しながら、成長する主人公麻子の物語です。

 NO.1 古道具屋の父、母、祖母、妹、友人の言葉や態度に翻弄され、妹への嫉妬を感じながら居場所を失い、好きな子ができて右往左往します(中学)。

 NO.2 従兄とコソコソと付き合いだしますが、妹の実力行使(欲しいものを力づくでつかもうとする頑なな一途さ)に会い、家族から離れます(高校~大学)。

 NO.3 仕事でやその同僚となじめませんが、古道具屋仕込みの力によって、徐々に、自分の意見を言えるようになり、周囲から認められるようになります(会社)。

 NO.4 ついに、自分の心の内の何ものか(好きなものを素直に好きと思えること、物に込められた愛情に対する熱意)とわかりあえる人と出会い、「かわいい」「似合っている」「愛している」などの自分が背負っている肩の荷(人まね)に気付かせてくれます(会社~結婚へ)。

 内気で目立たず大人しい、生真面目で堅くて臆病、なので、少しまわりとのズレを感じても自分の方で我慢したりして感情を抑え込むようになる、まわりとの距離をとり壁をつくっているので、なかなか言い出せないし溶け込めない、結局、何をしてもうまくできず、自信をもてるわけでもなく、また悪循環を繰り返す。このため、葛藤、苦しみなどの問題をひとりで抱え込むようになりますが、しかし、そんななかでもめげずにがんばるからこそ、やがては訪れる、まわりの手助けや王子様にめぐり合えます。そして、勝手な思い込みでつくった殻に気づかされ・こわして、ひとり逃げ込まずにぶつかっていけるようになれる自分の何ものかがわかり、救われる、という、清廉で素直、のびやかさのあるお話だったと思います。

 ただその一方で、妹への嫉妬心、ないものねだりの心などを痛烈に認めるなどなく、サラりといいとこどりをしているので、依然他力本願的な甘えの払拭や感謝の意などのないのが、気にかかります。だから、これでうまくいけば問題ないけど、そうじゃないから悩んでしまう、でも相も変わらず、繰り返し求めてしまう、そういうサイクルにはまってしまうことがあることの気づきも、読み手には必要なのかなとも思いました。

 全体的には、濁りや汚れのない、スーッときれいな音色の音楽を聴いているような気分、前向きな幸福感といった、とても気持ちの良い読後感だったと思います。(2020.02)

 では、また!