キジしろ文庫

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アーサー・C・クラーク「2001年宇宙の旅」

あらまし

 三百万年前の地球に出現した謎の石板は、原始的な道具も知らないヒトザルたちに何をしたのか。月面で発見された同種の石板は、人類に何を意味しているのか。宇宙船ディスカバリー号のコンピュータ、ハル9000はなぜ人類に反乱を起こしたのか。唯一の生存者ボーマンはどこに行き、何に出会い、何に変貌したのか…。発表以来25年、SF史上に燦然と輝く記念碑的傑作に、作者クラークの新版序文を付した完全決定版ついに登場。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、現在の人類は、見ることも、知ることも、着想することも、その目的や理由など人知の及ばない超越的な宇宙のしくみの過程上の幼年期にしかすぎず、その導きのひとつとして、人類は、宇宙の管理人さん的な精神エネルギー体に進化していくという展望を示したものと思います(管理人さんなので、超越的な意思は有無含めて不明です。なので、さらにこの先がどうなっていくのかも、到底わかりません。)

 さて、現在、新型コロナ第3波に伴う、緊急事態宣言再発令にネットやTVは騒然としています。定性的・主観的・不透明な判断やその手法、権力構造への批判や、ワリを食わないよう・火の粉をかぶらないよう、少しずつ毒を含ませながらモノを言う、あさましさや卑劣さ、悪意が透けて見えるコメント、解決の出口のないつぶし合いやたらいまわしなど、みな、とても空疎ですさんでいます。

 春の収束段階で、政治に対策の丸投げを選択したみなにもその一旦は、担わなければいけませんし、ピンチをチャンスに変えることを選択している人や企業も多いのでは、と思います。なお、いのちと暮らしを守る、と良く言われていますが、並べてはいけないもの並べても、既に無感覚になってしまっている(いのちを粗末にしている感覚)と感じている、そんななかでの本書の雑感です。

①さりげない日常にも作用をうけざるをえない不可知の力やしくみの存在

②このような唯一絶対を意識して初めて具現する、各人の自由意思や選択、対等な関係、共感や尊敬などの人格

③そもそも、世界観を感知し咀嚼する感性の醸成や機会、その自覚

 以下は、それなりに、まとめてみたものです。参考まで。

 

(1)原初の夜

 病気、飢餓、猛獣の襲撃によって絶滅の道を進んでいたヒトザルに、透き通った直立石(モノリス)が、音や光で注意を惹き、その心身を捉え、結び目をつくる・石を投げるなどの実験をします。次に、選別されたヒトザルに、羨望・苛立ち・不満といった濃密な感情による人間性を生み出すレッスンを始めます。そして、ヒトザルには、石や骨を使った狩猟や武器としての使用など道具を使いこなすといった、思考のきざしが始まります。ここで、モノリスは去りますが、やがてヒトザルは、体形を変え、氷河期を経て、ことばをおぼえます。このようにヒトは、自然を制御することを学び、火、青銅や鉄、農耕、文字、そして槍・矢・銃といった武器によって、世界を征服します。しかし、それは借りた時間を生きているに過ぎません。

(2)TⅯA・1

 月旅行が行われ、月面基地では、1,700人が住み子供も生まれ育ち始めています。そのようななか、磁気測量による異常個所が見つかります。300万年前の地質から、漆黒の厚板(モノリス)が掘り出され、地球外知的生命を立証する最初の証拠となります。そこで、掘り返したところ、太陽光を浴びたことで、特異なエネルギーバーストをまきちらし、次の星(土星)へ向かいました。

(3)主人公は、モノリスと地球外知的生命とのコンタクトが真の目的ではありますか、その精神的ショック回避のために、知らされることなく、土星到着までの航行をミッションとしています。しかし、宇宙船をコントロールするAIは、その隠蔽に伴う罪悪感や葛藤に耐え切れず、異常をきたし、主人公を除く乗組員4人がAIのパニックによって犠牲となります。道具によって世界を支配してきた人間が、最終的にその道具によってその主権を奪われそうになりますが(生存競争の結果)、勝ち残るというものです。

(4)主人公は、土星の衛星ヤペタスにあった巨大なモノリスに接近後、その内部に潜入します。時空を超えた先の宇宙操車場や廃棄場、成熟期の太陽や終末期の白色矮星といった宇宙の興隆を無意識下に体験する中で、その思考や意識を精神エネルギー体に昇華させ、さらに「永遠」を乗り越えます。そして、宇宙的世界観から、地球軌道核設備を破壊します。

 (2021.01)

では、また!