キジしろ文庫

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スタニスワフ・レム「砂漠の惑星」

あらまし

 6年前に消息をたった宇宙巡洋艦コンドル号捜索のため<砂漠の惑星>に降り立った無敵号が発見したのは、無残に傾きそそりたつ変わり果てた船体だった。生存者なし。攻撃を受けた形跡はなく、防御機能もそのまま残され、ただ船内だけが驚くべき混乱状態にあった。果てなく続く風紋、死と荒廃の風の吹き抜ける奇怪な<都市>、貞察機を襲う<黒雲>、そして金属の<植物>…探検隊はこの謎に満ちた異星の探査を続けるが!?(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★★★星5 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 現在、電気信号を巡らせるタンパク質から成る有機物である人間と、無生物である新型コロナウィルスとの競争原理がはたらく真っ只中、3度目の緊急事態宣言が発出され、ステイホームのGWが始まります。依然として、地球では、強烈な見えざる力や試練の猛威が奮っています。

 このようななか、本書からは、たんに、生命の限界に絶望し虚無感に浸る、にとどまることなく、むしろ、合理的・心情的にも不条理・無意味の世界にあって、「自分の人生を、責任をもって生きているか?その覚悟は良いか?」と問われていると感じました。

 日々が、楽しいこともあれば、欲情や享楽にも耽る。他人との比較や意見は鬱陶しいが、自ら起こす失敗に悔いも残る。漫然にも虚無的にもなり、救いを求め信じることもある。

 懸命に、真剣にモノゴトに打ち込み、あるいは、ヒトとの関係に思い悩み戸惑い、逡巡もする、このような、自分は持てる力を尽くしたのか?一日を終えてどうだったのか?

 すべて我が身に降りかかる、その責任は、助けはあっても他人任せにはできない。引き受けなければならない人生の責任とその自覚を持っているのか?

 見聞や経験でしか得られない大事なコトを教えて頂いたと、前向きにとらえました。

 

さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)金属機械の無機物質が自然作用の一部となり、心理や思考力・生命の存在しない世界

 レギオス第三惑星では、異星人亡き後に遺された自動機械が、そのホメオスタシス(恒常性)によって、自己変革と自己増殖を行い、省エネルギーの環境に順応し、惑星上の生物や他の自動機械との生存競争と自然淘汰のすえ勝ち抜いた、無生物的進化の産物となっています。このため、この惑星には、

・海中に磁場に敏感な魚等が棲息していますが、適度な酸素はあるにもかかわらず、陸上生物はいません。

・陸上で同様に進化してきた金属工作物は潰滅させられ、廃墟となって残存していました。

・地層には、2度、生物棲息の痕跡はあるものの、近年の数百万年は金属物による厚い表層からなっています。

・黒雲は、金属植物から湧き起り、浮揚集合し形状を変えるY字形の羽虫のような微小自動機械によるものでした。その特徴は、非生物的頭脳が、人間の中枢神経や機械の人工頭脳の信号変化を感知し、通信を途絶させるとともに強い磁気衝撃を及ぼし、記憶を消失させることにあります。このように、知能をなくし、痴呆・狂錯・人格崩壊・幼児化・廃人化を引きこすことで、相手を殲滅するものでした。

・このようにレギオスは、「黒雲」が、嵐や地震など同様に、意識・感覚・思考・心理を伴わない自然力の一部となって存在する、生命の存在しない無意味で無機質な摂理が構築された冷酷な世界です。

(2)全滅状態の夥しい犠牲

①発見されたコンドル号の乗組員(冷凍睡眠者への死直前の記憶抽出も行う)34名ほか

②捜索にあたった無敵号の、探鉱の単独調査をしてしまった隊員1名が記憶喪失

③金属地層の調査中の隊員全22名中18名が記憶喪失

④上記③の通信不通に伴い出動した偵察機反物質放射砲を使用するも、隊員2名が消息不明

⑤上記③の4名の捜索にあたった、主人公ロハンを除く隊員全11名が記憶喪失

⑥⑤同様に向かった、原子攻撃可能のAI重戦車が記憶喪失となり、無敵号による破壊

(3)主人公ロハン

 主人公ロハンは、⑤で、逃げ惑う隊員たちに渦となって襲い掛かる黒雲の壮絶な惨状を目の当たりにし、茫然自失し感覚麻痺状態となったために、黒雲からの難を逃れ、ひとり帰還します。しかしながら、そのような特性を持ち、現場を知り、さらに仲間(4名)を見捨てられないといった使命感によって、単身現場へ再捜索に向かいます。そして、黒雲からの攻撃はあるものの、執着のない自然と一体となった精神をもつことで切り抜け、隊員死亡などを確認したうえで無事戻ってきました。

(2021.04)

では、また!