キジしろ文庫

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ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」

あらまし

 月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密な調査の結果、驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもなければ、ましてやこの世界の住人でもなかった。彼は五万年前に死亡していたのだ!一方、木星の衛星ガニメデで地球の物ではない宇宙船の残骸が発見される。関連は?J・P・ホーガンがこの一作をもって現代ハードSFの巨星となった傑作長編!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、人類の未来への夢や希望・宇宙の浪漫を抱くなど、気持ちを大きく、高揚させてくれると感じました。

P222 「しかし、人類は大きな夢を描きます・・・」彼は、低い声でゆっくりと言った。「人類が今日描いた夢は、明日きっと実現するのです」

 それは、以下のようにして、身勝手な利己心へのくすぐり・挑発・揺さぶり、そして、のせられ・おだてられ・踊らされ・駆り立てられて、扇動へと向かわせてくれているからだろうと思いました。

①謎の事件究明に発した好奇心への刺激が、読むにつれ、スッキリしない思考束縛に変わり、その解放を求め始める。

センス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見はる感性)。

 ①のための新事実(問題)、仮説、検証、考察を繰り返す論理的思考のアプローチが、さらに矛盾を生む問題を生じるが、それら相矛盾する個別の理論を成立させる、人類の起源という生物進化論や、宇宙天文学についての壮大で画期的な原理の発見に至ったこと。

③②に辿り着くため、人類についての、自然淘汰のなかでの選ばれし者としての誇り、それを裏付けた「強い意志と攻撃性」への肯定感の潜在化・思い上がりの芽生えの定着。

 なので、個性や自由の尊重については、自己への執着や奢りに過度に偏ることなく、他者への共感や尊敬・貢献(たとえば感謝をもらう)や、そのために、謙虚になって懸命に力を尽くす心がまえやその行為も忘れないようにしたいと、思いました。

 

 さて、以下は要点を絞った簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)問題

 月面の洞窟で、5万年前に死亡した現人類ほぼ同様の死体(ルナリアン)を発見した。これは、誰か、どこから来たのか?また、木星の衛星ガニメデにて、2500万年前の巨大宇宙船と巨体体形の遺骨(ガニメアン)及び動植物を発見した。関連性はあるのか?

(2)解答1<ダンチェッカー:ルナリアンは地球起源説>

 ルナリアンは、体構造・組成から、地球にて進化(進化とは完成形や理想形に向かう進化の収斂ではなく、不備欠陥を抱えた不適格の排除に過ぎないため、別場所とその経過で起きる平行進化の可能性はない)した。

(3)解答2<ハント:ルナリアンはミネルヴァ起源説>

・地球上でのルナリアン文明の痕跡なし

・地球には影響のなかった月面裏側のみの5万年前の隕石雨・底層部の爆弾被爆、表側放射線照射の痕跡。

・火星・木星間の小惑星帯は、ミネルヴァという惑星が5万年前に崩壊したもの。

・ルナリアンは、その携行書類からミネルヴァ出身であること。月の他の地下廃墟から発見された魚が、容器の表示からミネルヴァで進化したものであること。

⇒ルナリアンはミネルヴァにて進化し、月及びルナリアン母星を含めた大規模核戦争を引き起し、それによってルナリアンは絶滅。

(4)解答3<ダンチェッカー:ルナリアン地球起源+ミネルヴァ移送説>

  ガニメアンはミネルヴァで、ルナリアンは地球で別個に進化、ルナリアンの移住に伴う対立により、ミネルヴァは崩壊し両者は絶滅。

(5)傍証<ハント:ルナリアン地球起源+ミネルヴァ移送説への疑問>

・更なる追加資料の発見によって、ルナリアンは、太陽系全域に跨る氷河期の到来に対しての移住を考え、宇宙航法のための金属資源を争う惑星内対立(ルナリアン対ガニメアン)があった。月はその偵察行動だった。

⇒ルナリアンは、かつて地球からミネルヴァに移住したなら、そのような惑星間航法の技術をもっていたこと、ガニメアンにも、更に以前からその技術があったこと、政治漫画による対立する姿が人間そっくりであることから、ガニメアンは、ルナリアンの戦闘には不関与と推察。

(6)解答4<ダンチェッカー:ルナリアン地球起源+ミネルヴァ移送説>

 ガニメアンは、月の魚の骨格と同じ系統であることから、ルナリアンとは別個にミネルヴァで進化したもの。また、ガニメデで発見された宇宙船内部にあった動物(類人猿)は、太古の地球に存在していたものであることから、ルナリアンはガニメアンによって、ミネルヴァへ移送され進化したもの。

(7)解答5<ハント:ルナリアン地球起源+ミネルヴァ移送説>

・ルナリアンの携行書類によって、あらたに、ミネルヴァから月までの短い到達や通信時間、月からミネルヴァへの兵器照準の正確さ、ミネルヴァ表面を目認していたことがわかる。

⇒ルナリアンはこれらが可能な地球を起源として月にいったもの。

(8)解答6<ダンチェッカー、ハント:ルナリアン地球起源+ミネルヴァ移送説>

・発見資料の分析(人間らしい=陸棲の)から、ミネルヴァ固有の海中生物は棲息を続けたにもかかわらず、陸棲生物は新しい系列にとって代わっていたことがわかる。

・さらに、この原因が、2500万年前ミネルヴァでのCO2濃度の急激な上昇があったこともわかった。

⇒このために、ガニメアンは、地球から動植物を移送したものの失敗し脱出。残された固有種は環境に適合できず、他方、CO2に強い移植種が繁殖し、ルナリアンとして進化していったもの。

(9)補完解答<ハント:現在の月はミネルヴァの衛星起源説>

 (8)。(7)の月とミネルヴァは近距離であるはずという問題についての解答。

  現在の月は、母星ミネルヴァの爆撃崩壊に伴う重力の激変によって、ミネルヴァの月が太陽に向けて落下し、偶然通過した地球が捕捉し、地球の月となったもの。これにより、地球自転周期の変動の謎もとける。

(10)補完解答<ダンチェッカー:現人類はルナリアン起源説>

 現人類とルナリアンにおける、地球とミネルヴァでの隔離進化に伴う形質上生じるはずの差異がない問題に着目。これは、月で残存したルナリアンが地球に向かい生き延び、ホモ・サピエンスとなったことで帰結される。したがって、5万年前の地球固有種のネアンデルタール人の突然の滅亡の謎もとける。

(2021.06)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!