キジしろ文庫

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キム・スタンリー・ロビンスン「レッド・マーズ」(下)

あらまし

 入植開始から数十年。火星の地表には数多の巨大テント型居住施設が完成し、衛星軌道に達する人類初の宇宙エレヴェーターの建造も始まった。しかし、地球が主導する火星の急激なテラフォーミングと移民の急増、大規模な開発と搾取は両惑星間に深刻なあつれきを生む。危うい均衡が崩れるとき、地球と火星の双方に途方もない大参事が迫る。星雲賞ネビュラ賞、英国SF協会賞受賞。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、今後の火星の発展と人間の成長のための発端といった段階を著したものなのでしょう。なので、続編2部での飛躍に期待がもたれます。したがって以下は、否定的な見解となってしまいましたが、簡単なとりまとめを行っています、参考まで。

 科学オタクで世間知らずのワガママお子さま集団が、好き勝手に火星の乱開発を行い、宇宙エレヴェーター建造による採掘資源の搬出だけでなく、無節操に発明した長寿薬を惜しげもなく地球に渡してしまいます。これに伴い、人口激増中の地球は、火星の利権をめぐる核・生物兵器戦争と人権的混乱が激化します。

 他方、一山あてよう・ワリのいい商売・違法な営業など地球を避け、逃げてきた利己心の強い新たな移民が、火星では増加します。しかし、企業利益を優先した厳しい研究開発管理など、地球で執行される搾取型の火星統治(法政治制度・経済、警察などの権力構造など)の二重の締め付けが行われ、不満が鬱積します。

 お子さま科学者たちは、入植当初は考えてはいなかった、原始共同体などの火星的統治を徐々に望みながらも、それをさらに具現・発展化できず(例えば、長命薬の利益による経済力の確保、新資源を基にしたエンジンや機械による兵器製造などの権力構造、火星環境保全テラフォーミングかといった火星意思決定機関の設置など)、放浪の旅に出たりして、個別に話し合いをするばかりで、煮え切らず、反テラフォーミングとしての破壊活動捜査が、逆に企業側に都合よく利用されてしまいます(犯人としてデッチアゲられそうになる)。

 そこで、地球制約からの分離独立を信奉するお子さま科学者(アルカディイ)が、搾取型の統治への不満をもつ機運を扇動し、火星各所で蜂起・暴動・反乱がおこります。

 しかし、火星私有化を狙う企業側工作による保安部隊や国連による強制鎮圧の前に、宇宙エレヴェーターの倒壊や洪水・フォボスの墜落・砂嵐の発生といった抵抗も空しく、多数の死者とほとんど全ての施設損壊という火星壊滅状態を迎えてしまいます。生き延びたお子さま科学者たちは、復興を期して、「レッド・マーズ」としてはここで終えます。

 それにしても、ここに至っても、お子さま科学者たちは、地球製の輸送手段によって入植し、大型の機械類だけでなく、食料衣服・医薬品・エネルギー・身近な製品も地球から持ち込まれ、通貨や信用などの経済や法制度は地球側で処理をされ、火星での自分たちの意思決定の権限も持つこともない、といった各企業側から送り出された都合の良い競争の道具(有能な資源採掘労働者及び関連事業者)に過ぎないこと、そして暴動や反乱に至った火星統治不全を、本当に自覚できたかは不明です。

(2021.08)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!