キジしろ文庫

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ジョ―・ホールドマン「終わりなき戦い」

あらまし

 人類は画期的な新航法コラプサー・ジャンプを発見、その結果多数の移民船や探検船が果てしない宇宙へ送り出された。だがそうした船の一隻が、正体不明の異星人に突如攻撃されるという事実が発生し、これを契機に人類は、トーランと呼ばれるこの異星人との全面戦争に突入した!過酷な訓練を受け、殺人機械と化した兵士たちが、特殊スーツに身を固めて戦地に赴いたものの、戦況は次第に救いなき泥沼化の様相を呈していった・・・期待の俊英が壮絶なる星間戦争を迫真の筆致で描き「宇宙の戦士」にまさるとも劣らないと絶賛された、ヒューゴー、ネピュラ両賞受賞の傑作戦争SF(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、確たる入隊動機ももたず、かなりの有能な主人公は、徴兵によって、終わり見えない目前の問題(試練)に、必死ではあるがどこか冷めたように対処し続けます。苛烈な戦闘を生き延びて気が付けば、星間戦争は、虚偽に始まり、経済を潤し、クローン人間の登場による地球社会の変化(同じクローンのトーランとの対話)によって終戦を迎えたことが、わかります。

 無意味・理解しかねる時代や社会の大きな影響力の存在と、その下で体制へのつくられた無関心と従属せざるを得ない個人の無力感や諦観を感じつつ、メアリイゲイとの一貫した愛情という、不条理ながらも、せめてもの自由の実現があったことに安堵します。このような戦争を通してですが、個人の自由や平等・幸福実現と社会(思想、信仰、政治・・・)との係りの希薄化・乖離を感じさせます。

 なお、本書は、自由と平等から生じた同質化・差別化による愛国心などのイデオロギーや思想・価値観を高揚・扇動(ファシズム)していく「宇宙の戦士」とは対極にあるものと思います。せめて、本書が評価される時代や社会があることに、救いを感じます。

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

①主人公は、事故死などを生じる壮絶な訓練を経て、陸軍歩兵として、植え付けられた人工の憎悪によってアレフ大虐殺に参戦します。

②次に、軍曹としてヨド4方面作戦のための艦船移動中に爆撃を受け、メアリイゲイが重傷を負いながら、その後いったん地球に帰還しますが、復役します。

③そして、少尉としてアレフ7作戦にて突撃艇降下時に受爆し片足を切断、メアリゲイも片腕を切断しますが、再生治療と休養の末、復役します。

④さらに、少佐として、電極接続による新たな教育も受け、サード138方面作戦に臨みます。包囲戦を新星爆弾などにより切り抜けますが、8割の隊員を失い帰還しますが、終戦を告げられます。主人公は、先に帰還したメアリイゲイの手紙を読み、その元へ向かいます。

 このように主人公の復役②③は、負傷の末に戦地からの療養や地球に戻っても、ウラシマ効果によって、お金は増える一方ですが、縁者友人は亡くなり、時代遅れの知識や技能はやり直さなければ使えず、反戦運動や同性愛など既に進んだ社会には置き去られ、戦場以外には生きる場所がなくなっていることから生じています(挫折した反戦主義者)。かと言って、ガンマ攻撃部隊④では、時間が経ち階級が上がり、新参兵ともズレが生じており、同期のメアリイゲイへの思いが募っていました。

(2021.08)

CM 

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