キジしろ文庫

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ジェイムズ・P・ホーガン「創世記機械」

あらまし

 若き天才科学者クリフォードは、政府機関で統一場理論の研究を進めるうち、画期的な成果をあげた。物質、電磁気力、そして重力の本質を見事に解き明かしたのだ。この炉論を応用すれば、宇宙のエネルギーを自由に操り、利用することができる。使い方によれば、究極の兵器ともなりうるのだ。そこに目をつけた軍部は、ともすると反抗的なクリフォードを辞職に追いやり、独自に研究を始めた。彼は私的研究機関に移り、細々と自分の研究を続けていたのだが……。ハードSF界の旗頭ホーガンの面目躍如たる大作長編。(文庫本表紙見開きより)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書からは、科学技術は、無知と盲信と闘う武器であり、知識の獲得と活用にある。人間の最も卑しい本能である恐怖・疑惑・不信・憎悪、これに伴う軍事体制に奉仕するのではない。しかしながら、歪んだ現実界(戦争)に決着をつけるのであれば、それは科学技術でしかない。ということなのだと、思いました。

P94 科学者ども!おまえたちは、世界が手に入るというのに、花を摘みに行きたがるんだ。わたしのことを妄想だといったな・・・そういいながら、自分では事実や真実などというたわごとを追いかけているんだ!いいことを教えてやる・・・それが最大の妄想なんだ。客観的な事実などというものはない。事実とは、われわれが事実だと信じたもののことだ。強い意志と鉄のような信念が、事実を作り出す・・・一億の人間がともに立ちあがって、自分たちの望むことを固く信じれば、そのとおりのことがおこるんだ。強者が世界を作ったのであって、世界が彼らを作ったんじゃない。十分な数の人間がそういえば、真実が真実になる―それがわれわれの住む世界の現実だ。おまえの世界こそ妄想だ。数字・・・資料・・・紙切れ・・・それが人間に何の関係がある?人間が世の中を動かすんだ。そろそろおまえたちも、自分から進んでお伽の国を卒業し、このことを理解する努力をしてもよさそうなもんだ。おまえたちが今日あるのはわれわれのおかげであり、われわれがおまえたちを飼っているんだ・・・おまえたちが存在できるのは、おまえたちの玩具がわれわれに役に立つからだ。われわれは、おまえたちの落書のおかげで生きているんじゃないぞ。そのことを考えてみろ!

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

 まずハードとしての、新たな領域の物理法則が、自律型の高度なスパコンを使って、軍事施設や軍事行動を監視し、機動的に防衛・消滅させる装置を稼働させることで、戦闘行為を無意味・無価値化するというものです。

 この背景として、中国・アフリカ・アラブ・シベリア諸国による、香港・南朝鮮や台湾への思想工作と内政干渉、それに伴う破壊活動による非合法政権など緊張が高まってきており、さらにインドへの侵攻をキッカケに終には、米欧西側諸国との全面戦争へと突入してしまう事態に発展するということがあります。

 ここで、アメリカをはじめ西側諸国が目をつけた、究極の潰滅兵器として期待し資金を投入したものが、クリフォードたちによって製造された装置であり、インド侵攻が装置発動のタイミングでした。

 西側諸国は、科学技術の戦争・政治利用といった体制には関わらないクリフォード(束縛のない科学、好奇心と創造性の発揮を求めています)に圧力をかけ、その結果、永年の不始末の結果である軍事工学的手詰まりを粉砕する最終兵器としての提供を受けています。

 ところがこれは、大量殺戮兵器ではなく、敵味方構わず武器兵器(軌道爆撃システム、大陸間弾道弾、潜水艦ミサイル・・・)を瞬時に消滅させ、戦闘の無力化を導く装置として密かに仕込んでいたものでした。クリフォードの装置は、これによる停戦だけでなく、全世界の兵器全滅となったことで、東西の力の均衡構造をも粉砕したのでした。

 (2021.08)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!